おまけ:メリーさんと俳句クラブ(前編)
うららかな春の日差しが降り注ぐ午後。
どこからか川のせせらぎが聞こえてきて、桜の花がひらりひらりと舞い散る。本日もメリーさんのリクエストにお応えして、魔王城は桜が満開、季節を無視してVIVA桜吹雪でお送りしていた。
メリーさんは満開の桜に満足げにうなずくと、三色団子を手に持って宣言した。
「今日から、俳句クラブの活動を始めるの!」
そう言ってメリーさんはピンク色のお団子をぱくり。
魔王は急展開についていけなくて、目をぱちくり。
もっとも鎧のせいで魔王の様子は誰にも知られることがなかった。
さて、状況が掴めていないであろうみんなに説明しよう! だって誰も把握できていないから。
まず、ことのおこりは昨晩だった。メリーさんは近所のバブリーお姉さんに、アフターファイブのクラブ活動について示唆を受けた。ちなみにバブリーお姉さんというのはバブリーな雰囲気ムンムンのお姉さんだ。
そのバブリーお姉さんは、メリーさんに「すごい人がいるから、一度だけでいいから会ってみない?」と言葉巧みに誘い出し、メリーさんを俳句の世界に誘った。
影響を受けやすいメリーさんは滔々と語る。
「俳句を詠むにはね、まず『ゴリラネーム』を名乗らないといけないの!」
「それは本当に必要か!?」
速攻で魔王からツッコミが入った。だが、メリーさんは怯まない。
「近所のバブリーお姉さんが言ってたの。必要なの」
「いやいや待て待て。『ゴリラネーム』だぞ? ゴリラでネームだぞ? ゴリラと俳句は関係ないだろう? あと、近所のバブリーお姉さんって誰だ! マクドの女子高生並みに怪しい出典だな!」
繰り返すが、バブリーお姉さんとは、バブリーな雰囲気がムンムンなちょっと寂しげなお姉さんである。
さて、魔王の疑問ももっともである。
メリーさんは「いい質問なの!」と評価すると、厳かに説明を始めた。
曰く、俳句を詠むに当たっては自然の心が大事なの。自然とは天然なの。天然とは自然なの。自然の中で生きる動物であり、かつヒトにもっとも近い動物の名前を借りることで、ヒトは自然と一体になることができるのだとかなんとか云々。
「って近所のバブリーお姉さんが言ってたの!」
「いいから近所のバブリーお姉さんとはもうお付き合いするな! どう考えてもヤバい奴だろ。そんな設定を考えつくこと自体ヤバい奴だ。おい、誰か通報しておけ!」
魔王が配下たちに指示を飛ばすと、ゴブリン達がとてとてと走っっていった。
「でね、メリーさんのゴリラネームはね、俳句の師匠シェイクシェイクスピアから貰ったの!」
「名前シェイクしすぎだろ! 誤字かと思ったわ! それから近所のバブリーお姉さん、どこ行った!?」
「今日はネイル教室だって!」
「そういう意味じゃない!!」
ツッコミが追いつかなくなってきた。
「で、メリーさんのゴリラネームはどんなものなのだ?」
「魔王様! 気になるんですか!?」
静かに控えていた蛇男がたまらず悲鳴を上げた。
メリーさんが「あれ? いたの?」と呟いている。
「仕方ないだろう。メリーさんの『ゴリラネーム』だぞ? お前は気にならないのか?」
「それは気になりますけど……。聞いたら絶対後戻りできないやつですよ」
コソコソやりとりをする二人にメリーさんはにっこりした。
「2人とも俳句に関心がある? じゃあ、二人の『ゴリラネーム』はこのメリーさんがつけてあげるね!」
「ヒェ! 謹んで辞退します」
「安心するの! メリーさんが師匠として立派なゴリラネームをつけてあげるの」
メリーさんが胸を叩いて請け負った。うーん、安心できない。
「いえいえ、メリーさんの『ゴリラネーム』さえ聞ければ十分なので」
蛇男はなおもフェードアウトを試みる。
「まぁまぁ、そう言わないで。相手の『ゴリラネーム』を聞く時には自分の『ゴリラネーム』を言うのがマナーなの」
「うわ〜マナー講師もびっくりなマナーが出てきましたよ」
「ん? 何か言った?」
「いえいえ、何も」
「何も希望がないなら、蛇男さんの『ゴリラネーム』は『ウホウホリンリンね』。いいかい? 今からお前の名は『ウホウホリンリン』だよ。分かったら返事しな!」
「ぜっっったいに、イヤです!!」
蛇男が拒絶した。
だが、メリーさんは聞いていなかった。
蛇男に『ゴリラネーム』を授けると言う大役を果たし、次の仕事、魔王につける『ゴリラネーム』の検討に取りかかっていた。
しかし、そんなメリーさんに待ったがかかった。
「待ってくれ。まだ、俳句クラブに入会すると決めたわけではないから、『ゴリラネーム』は不要だ。今日はメリーさんとウホウホリンリンのクラブ活動を見学させてもらいたい」
「魔王様!?」
魔王はいつものように蛇男を売って逃亡を図った。上司としてはとんでもないやつである。
パワハラを〜! やめろ〜!
部下を大事にしろ〜〜!!
心の中でシュプレヒコールをしながら、蛇男が恨みがましい目で魔王を見る。部屋の湿気が5上がった。
しかし、魔王に効果はないようだ。まぁ、当然である。
「そうだったの! まだ入部希望を聞いてなかったの!」
「メリーさんは、いつもしっかりしているのに、こう言う時だけウッカリしてしまうことがあるな。気をつけるように」
「あの〜、ワタシ、入部希望なんて聞かれてないんですけど」
蛇男の独り言は当然無視された。
「まぁでも体験入部でも『ゴリラネーム』は必要なの。今日から『ウッホーゴリ山』を名乗るといいの!」
魔王の深謀遠慮によっても『ゴリラネーム』は回避できず、爆笑したウホウホリンリンには正義の鉄槌が下されたのであった。
後半へ続く!




