おまけ:メリーさんと俳句クラブ(後編)
桜散る
魔王城にて
俳句詠む
さぁ!魔王城第一回俳句クラブの始まりである。
独特の言い回しで、メリーさんが声を張り上げる。
「それでは、ここでいっく〜♪」
「いや、待て。なんだその妙な掛け声は」
ウッホーゴリ山(魔王)が眉を顰めて尋ねた。隣でウホウホリンリン(蛇男)もうなづいている。
「今から俳句を読みますよっていう合図なの!」
「……それは絶対に言わないといけないのか?」
「もちろんなの! マナー講師のシェイクシェイクスピア先生も言ってたの」
「そいつは俳句の師匠ではなかったのか?」
「俳句の師匠がマナー講師なの!」
分かったような、分からないような。
「じゃあ、改めて! ここでいっく〜♪」
メリーさんの宣言にあわせて、琴の音が優雅に響く。
「ゆずレモン はちみつキンカン シークワーサー」
「…………」
「…………」
ウッホーゴリ山とウホウホリンリンは顔を見合わせる。
それは本当に俳句なのか?
だが、しかし、メリーさんはドヤ顔で称賛を待っている。
「二人とも、早くドラミングしなきゃ!」
「訳が分からないのだが、ドラミングとは?」
「両手でこぶしを作って、交互に胸板を叩きながら感想をいうの」
「ドラミングは知っている。感想も言おう。なぜ、感想を言うのにドラミングをするのか知りたいのだ」
メリーさんはニヒルに笑って言った。
「そういうものだからなの」
「……もし、ドラミングに値しない俳句であった場合、いや俳句とも言い難いものを聞かされた場合はどうすればいい?」
ウッホーゴリ山が恐ろしいことを言った。そして畳み掛ける。
「そもそも、俳句とはなんだ?」
魔王はドラミングをしないために必死だった。隣では蛇男が固唾を飲んで状況を見守っている。
と、そこに、ゴブリン達に手を引かれ、バブリーお姉さんが現れた!
バブリーな雰囲気がムンムンのちょっと寂しげで笑うと笑窪ができるお姉さんだ。
「話は聞かせてもらったわ!!」
自慢のネイルをキラリと見せつけながら、バブリーお姉さんが魔王とメリーさんの間に割って入る。
「お前、どこから入ってきた!?」
「え? ゴブリンたちに連行されたんですけど〜?」
「くっ……大変申し訳ない」
速攻で謝る魔王にバブリーお姉さんは人差し指を突きつける。さっと後ろに隠れるメリーさん。
「俳句とは何か? そんなことよりも楽しく俳句を詠むことの方がもっと大切だと、あーしは思うの」
「そうだそうだ!」
「海と世界を次元を渡ったHAIKUは、Go!7Gooooo!!のスピリッツで心の動くままに詠めばいいの」
「そうだそうだ!」
そして、バブリーお姉さんは宣言する。
「もし、自分の方がもっと上手く俳句が詠めるっていうなら、見せてみなさいよ。俳句バトルよ!!」
かくして魔王城第一回俳句バトルの火蓋が切って落とされた。尋常に勝負である。
先攻はバブリーお姉さんである。
「ここでいっく〜♪ ヘイタクシー ヘイヘイタクシー ヘイタクシー!」
「どんだけタクシーに乗りたいんだ!? 松島もびっくりな俳句を作るな! それに季語どこ行った、季語!」
魔王は果敢に突っ込んだ。
「くっ! やるわね! でも、あーしも伊達に王都西街区3丁目の俳句四天王をやってないのよ」
「かなり狭いな!」
バブリーお姉さんは息を整えると、もう一度攻撃を仕掛けた。先攻とは?
「もういっく〜♪ 遠足の おやつの準備 楽しいな けれども明日は 大雨らしい」
「待て。それは俳句ではなく字数的に短歌だろう。あと、悲しすぎるぞ」
しかし、バブリーお姉さんは止まらない。コンビネーション技『シリーズ』を繰り出す。
「さらにいっく〜♪ 遠足の おにぎりの 中身は何かな ツナマヨ だったらいいな」
「ツナマヨは美味しいけど、さっきから俳句ではないよな?」
魔王は疲れてきた。しかし、相次ぐツッコミにバブリーお姉さんのHPも残り僅かになっていた。
立っているのもやっとという風に、バブリーお姉さんはメリーさんを振り返る。
「メリーさん、あとはあなたがやるのよ。あなたならできるわ!」
メリーさんはこくりと頷き、中央に進み出る。
「ここでいっく〜♪ リボ払い 完済する時 200歳」
「いやもうそれシルバー川柳だろう!? 負けた。オレの負けでいいから、もうこれ以上詠むな」
魔王は降参した。これ以上聞いていると、本当に気がおかしくなるような気がする。
ハイタッチをしてドラミングしながら喜ぶメリーさんとバブリーお姉さんに、魔王はこっそりとため息をついた。
魔王城
今日も少女に
振り回され
曇り空に
ため息をつく
「で、お二人のゴリラネームはなんだったんですかね?」
ウホウホリンリン(蛇男)の呟きを聞くのは舞い散る桜の花びらだけだった。
なんや、この話???




