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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第二章 夜叉の森ダンジョン編

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ep30 許容外

「……あ?」


 それは認定式が始まる前の記者質問の時間のことだった。


 最初は『Sランクに選ばれるのはどういう気分ですか?』とか『憧れの探索者はどなたですか?』とか、当たり障りのない質問ばかり。


 事前に狸原さんから質問の内容を知らせてもらっていたのもあって、準備していた回答をトチらないようにだけ気を付けて、淡々と答えていく。


Q.Sランクに選ばれるのはどういう気分ですか?

A.非常に光栄なことと考え、称号に恥じない働きをしたいと思います。


Q.憧れの探索者はどなたですか?

A.同じ魔力の多い探索者として、ロシアのルキーチ・カラシニコフ氏のことを尊敬しております。


 などなど。


 我ながら無難極まる。


 そんな中、手を上げた女の新聞記者の質問。

 それが、事前に聞いていた内容と違っていたのだ。


 ただ違っていただけならまだしも——その内容が。


「もう一度お尋ねしましょうか? 複数の既婚女性とただならぬ御関係のようですが、そちらについてもお聞かせ願えますでしょうか? やはりSランク探索者としては夜の相手も探索したくなるのかと——」


 瞬間、頭に血が上る。

 水瀬のおじい様のこともあり、落ち着いて行こうと、ある程度の無礼も押し流して今は我慢しようと考えていたが、これは——それだけは絶対に許さない。


「お前——」


『おほんっ! 関係のない質問は慎んでください』


 罵声を浴びせようとした直前、狸原さんの冷たい声が響く。


「では、元暴力団関係者と繋がりがあるという話については如何でしょうか!? 日本初のSランク探索者がそんな人間というのは日本の信用問題にも——」


『事前にお伝えした通り質問は一社につき一つまでとなります』


「……先ほどの質問を流したのはそちらでは? この対応は余りにも非常識なのではないでしょうか?」


 その言葉を、狸原さんは無視。

 次の記者へとマイクを渡すように指示を出す。


 が、当該記者は渡すことなく、抗議を続ける。

 まさしくその行為こそが目的であるかのように。


 べらべらべらべらと。

 俺の大切な人を貶めようとする。


(……ここまで来れば分かる)


 きっと俺を怒らせるのが目的だ。


 俺の精神性がただの田舎高校生である事は少し観察すれば容易に想像が付く。


 そうでなくても、ホテルの入り口での一件を見れば、誰でもわかるだろう。


 だから、彼女は俺を怒らせようとしている。

 その方が、記事になるから。


 故に、ここは狸原さんに任せるのが吉だ。

 会場の隅では『落ち着いて』と手でジェスチャーをする宮本さんの姿も見える。


 大丈夫、理解してますよ。

 俺はそんなに子供じゃありませんので。


「……」


 ただ——子供ではないけれど、だからと言って大切な人を貶められて黙っていられるほど、大人でもない。


「構いませんよ、狸原さん」


『そ、相馬さん?』


「先ほどの質問にお答えしますと、皆さん私の良き相談相手であり、事ここに至るまで多くの尽力をいただいた大切な仲間です。私は一人でダンジョンを攻略したと言われておりますが、そんなことは無い。彼ら彼女らの支えがあり、献身があったからこその攻略で——この命です」


 俺は息を吸い込むと、プラプラ揺れる左腕の余った袖口を正面に突き出しながら続けた。


「おかげで、この程度で済みました」


 これで何とかなるだろう。

 我ながら上手いことまとめられたと思う。

 欠損した腕を前に、これ以上続けることは早々出来まい。


 なんて、思ったのが悪かったのか。

 それとも相手が悪かったのか。


 おそらくは両者だ。


 俺はダンジョンに出現するモンスターの生態には詳しいが、人間社会に極稀に出現するモンスターの生態には詳しくなかった。


『なるほど! つまり元暴力団関係者と繋がりがあるということや既婚女性とただならぬ関係であるのは事実であると!』


「……」


 会話が通じない。

 そんな記者を前に、俺は絶句する。


 狸原さんはきっと知っていたのだろう。

 この記者は何を言っても無駄だと。

 だからスルーしようとした。


『こうなってくるとギルドとの癒着も怪しくなってきますねぇ~! まぁ、複数の不倫疑惑に加えて暴力団とのつながり、裏金や賄賂の疑惑もある、そんな人間を日本初のSランクにすげるというのは、はっきり言って私は——』


「……なぁ」


『……なんでしょう?』


 俺の呼びかけに、女は笑う。

 狸原さんは焦った表情を見せ、宮本さんは慌てて駆け寄ってきて——しかしそんな光景などどうでもいいと思えるほどに、俺ただ……ただただ静かに問うた。


「俺、何かアンタに悪いことしたか?」


『……え?』


「必死こいて戦って、腕なくなって、それで支えてくれた人まで貶められる……なんでだ? 何もやましいことなんかねぇよ。元暴力団? 既婚女性? だからなんだ? 助けてくれた人たちに感謝して、仲良くしちゃダメなのか? ダメって言うなら、何でアンタは助けてくれなかったんだ?」


『……』


「そんなに言うなら、アンタが助けてくれよ。四肢欠損状態から回復させてくれよ、俺の良き相談相手になってくれよ、生活が苦手な俺を手助けしてくれよ、どんなに忙しくてもいつも裏から支えてくれよ」


『……』


「無理だろ? だってやってこなかったんだから。やろうともしなかったんだから。自分は何もせず外から騒ぐだけ騒いで……アンタがやったのは、俺の大切な人たちに迷惑を掛けただけ。俺にとったらダンジョンのモンスターと何ら変わらない()なわけだ」


『……っ』


 じっと見つめる視線の先、新聞記者の顔が初めて強張った。

 何だその顔は。

 何だその態度は。


(……アホくさ)


 俺は小さく息を吐くと、言葉を続ける。


「でもアンタはモンスターじゃなくて人間だから……。だからさ、言葉が通じるなら頼むよ。俺の大切な人たちについて、もう二度と言及しないでくれ。迷惑だ」


 言い切ると、静寂が降りる。

 誰も声を上げない。

 記者も、自身の不利を悟ったのか閉口している。


 そんな中、最初に声を上げたのは狸原さんだった。


『今のを持って回答とさせていただきます。なお、一部記者の身勝手な行動により予定より時間が差し迫っておりますので、残りの質問は認定式の後に行いたいと思います。ご了承ください。それでは』


 そう言って認定式前のインタビューは終わった。


 俺は小さく息を吐きながら壇上を降りて、部屋の隅へ。するとすぐさま宮本さんが駆け寄ってきた。その表情は非常に複雑なもの。


「すみません。我慢できませんでした」


「……っ、いえ、こちらの不手際です。まさかこの場面であんなことを聞く馬鹿が居るとは……。チッ……あのクソ記者、絶対ぶっ殺す。てか老害組にチクったら出版社に圧力かけれるか……? 確か石井さんが向こうの社長と知り合いだったような……」


 ぶつぶつと物騒なことを呟く宮本さん。

 ふえぇ……怖いよぉ……。

 でも流石に庇おうとは思わない。


 ダンジョンやモンスターの襲来があれば俺は先ほどの記者であろうと命を懸けて守るが、人間社会(・・・・)における罰に関してはどうでもいい。


「兎にも角にも、あとはこちらに任せて相馬さんは休憩してください」


「は、はい。ありがとうございます」


 俺は礼を述べて用意された別室に向かおうとして……スマホが震えた。


 即座に画面を確認したのは、一種の職業病。

 いつ何時、どんな状況だろうと俺は三船ダンジョンの異変対応をしてきたから、沁みついた癖は早々抜けないのだ。


 そして、液晶に映っていたのは『松本さん』の名前。


 ——ドクン、と心臓が跳ねて、悪寒が背中を覆う。


 彼女のことだ。現在進行形で配信中の、この動画を見ていたことだろう。


 帰ったら、緊張してたわね~とかなんとか言って、揶揄ってくれただろう。


 そしてそんな彼女は——間違ってもこんな場面で電話してくる人ではない。


 緊急事態(・・・・)でもない限り。


「もしもし、相馬です」


『相馬くん。……こんなこと、東京に居る相馬くんに言っても仕方ないと思うけど、でも、伝えなきゃ絶対に後悔するって思ったから伝えるわね』


「……はい」


 小さく息を吸い、彼女は告げた。


『夜叉の森ダンジョンで異変が発生、転移魔法陣で水瀬ちゃんと幸坂さんが現在行方不明よ』


「……は?」

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― 新着の感想 ―
クソ記者の社会的抹殺方法とか考えてたら、最後の一文でフッ飛んだわ。
流石言葉もSランクって訳だね 重みが違う
この反論、よかったと思うけど。 これにケチつけるような国民が多数なら、地元で引きこもって、他所で何があっても見捨てても良いかな 現実でも叩かれっ放しであっても、揺り戻しで擁護の波が来る。 今回もそう…
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