ep23 お馬鹿な探索者
巨大魚を釣り上げたのは三人の冒険者。
白木と呼ばれた亜麻色の髪の少女。
ツッコミの冴えるフードをかぶった少女。
友利と呼ばれた軽装が特徴的な深い青色の髪の少女。
みんな俺と同じぐらいの年齢だろうか。
いざとなったら助けられる準備をしつつ——しかし、白木と呼ばれた少女の動きを見て、俺は肩の力を抜いた。
「せんぱい……」
「あれは大丈夫だ。それより同年代の探索者なんて珍しいからな、七規も参考としてよく見とくといい」
「わ、わかった!」
ぐっとこぶしを握り頷くのを確認して、俺は少女たちへと視線を向ける。
するとそこでは戦闘が始まっていた。
釣り上げられた巨大魚は陸の上で大きく跳ねて体勢を整えると、尾びれを利用して跳躍。
見た目以上の速度で三人へ迫る。
狙われたのは友利と呼ばれた軽装の少女。
彼女はぼけーっとした表情のまま佇み、あわや押しつぶされるという寸前で――受け流す。
身体強化魔法は使っているだろうが、それでも恐ろしい技術だ。
受け流されて宙に浮いた巨大魚目掛け、今度はフードの少女が魔法を行使。
雷属性中級魔法『ショックボルト』。
稲妻が一閃し、巨大魚は感電。
麻痺して動けなくなる。
それはほんの一瞬。
すぐに巨大魚は動き出す——が、その一瞬で十分だった。
釣竿から身の丈ほどのバスタードソードに持ち替えていた白木という少女は、一歩踏み込み——急加速。
身体強化魔法ではない。
風属性魔法による気流操作だ。
瞬きの間に距離を詰めると、彼女は感電する巨大魚目掛けてバスタードソードを一閃。
真っ二つに叩き切る。
「強いな、あの三人」
「せんぱいから見てもそうなの?」
「あぁ、Cランク……いや、Bランクか?」
連携、動き、攻撃力。
どれをとっても一流。
ただ実力を測るには相手が弱すぎた。
特に白木と呼ばれた少女のバスタードソードの威力。
巨大魚が柔らかいから両断に至ったが、仮に相手がゴーレムのような硬質なモンスターだとしても、砕いてしまうのではなかろうか。
それほどの破壊力を持つ一撃だった。
「いえ~い! 湖の主、獲ったど~!! 今日はお刺身だぁああ、ぁぁああああ!? 私の魚が消えていくぅううう!?」
「白木ちゃん! ダンジョンなんだからモンスターが消えるのは当然だよ!」
「……帰ったらお刺身食べよ」
ダンジョンに吸い込まれコロンと転がった魔石を回収する三人。
そこに席を外していた幸坂さんが戻って来た。
「なんか、凄い音が、してたけど……大丈夫!?」
「えぇ俺たちは。戦ってたのは彼女たちなので——」
答えつつ、少女たちの方へ視線を向ける。
すると向こうもこちらの存在に気付いたのか目を丸くした後、申し訳なさそうな表情で近付いてきた。
「あは〜、ごめんごめん! お騒がせしちゃったみたいだねー! 私は白木音沙! いずれ夜叉の森ナンバーワンになる探索者だよ!! よろしくっ!」
バカっぽい笑みを浮かべる白木さん。
いや、本当に失礼で申し訳ないけれど、バカっぽいとしか言いようがない。
表裏がないと言えばいいのか。
表裏を考える脳がないと言えばいいのか。
割と親近感抱いちゃうね(バカ)。
「あ、はい。俺は相馬創です。こちらこそよろしくお願いします」
「どもどもよろしくね~。相馬っちって呼ぶね! 私のことも呼び捨てでいいよーっ! にしても相馬っちってば美人二人も連れて、やんちゃな探索者だねぇ! ……って、何よ江渡ちゃん」
一歩どころか三歩ほど飛ばして距離を詰めてくる白木にたじろいでいると、フードをかぶった少女――江渡さんが彼女の服の裾を引っ張った。
江渡さんは俺の顔を見た後、慌てた様子で叫ぶ。
「し、白木ちゃん気付いてないの!? この人、あの相馬創さんだよ!! 失礼だよ!!」
「……生で見るの初めて……感動」
江渡さんに続いてぼそりと呟く友利さん。
手を差し出してきたので握り返す。
握手を終えると「むふー」と満足気な表情。
感情が希薄なのかと思ったが、意外とミーハーなのかもしれない。
そんな江渡さんと友利さんの反応に、白木は首を傾げる。
「え、江渡ちゃんも友利ちゃんも知ってる人なの?」
「Sランク探索者だよ! ほら、三船町を一人で守ったって言う!」
「Sランク? 三船町? う~ん……はっ! そうだ! 相馬創! 知ってる知ってる! って、えぇ!? そうなの!?」
「まぁ、そうです。町を守れたのは俺一人の力ではなく、みんなのお力添えあってのことですが」
「な〜るほどね! やっぱり協力は大事だよね〜! わかるよ、相馬っち!」
「謙遜だよ白木ちゃん! 言葉の表面しか捉えないのどうにかならないの!?」
「なぬ!? 今のが謙遜……? 本心を隠して話すとは、さては相馬っち頭が良いな? テスト何点?」
何故にテストの点数なんだ。
「赤点」
「な~んだ、仲間か~! わっはっは〜!」
肩を組んで笑う白木。
ホント距離感近いねキミ。
おかげで七規が膨れっ面だ。可愛い。
それはそうと白木の仲間と言うのは釈然としない。
流石にここまでバカでは無いと思うから。
なので俺は虎の威を借りる狐が如く、優秀な後輩へと視線を向けた。
「因みにこちらの美少女は全教科九十点です」
「え!? ど、どうも?」
「え……神、様?」
がくりと膝を堕とす白木。
ノリがいいと言うべきか、バカと言うべきか。
おそらく両者だろう。
そんな彼女の奇行に対し、しかし江渡さんと友利さんは特に気にせず幸坂さんと挨拶を交わしていた。
きっとこれが白木の平常運転なのだろう。
なんか変な人たちと知り合ってしまったな。
俺はぼんやりとダンジョンの空を眺めながら、そう思うのだった。




