ep21 過去との邂逅
モンスターが近付いているのは気付いていた。
しかし他の探索者の獲物を奪うのは基本的にご法度。
人数的にも危険はないと放置して進もうとしたところ、先ほどギルドで話しかけてきた大男の声が聞こえてきた。
明らかに焦った声。
彼の実力を考慮し、万が一に備えて動いた。
結果としては、動いて正解。
あと少し遅ければ重傷者が出ていただろう。
「大丈夫ですか?」
話しかけると全員の視線が集まる。
いやん、照れるじゃないの。
大勢に注目される事自体は学校で慣れているが、その全員が探索者となると中々に迫力があるな。
「相馬……創?」
「あ、はい。先程はどうも。危なそうだったので乱入させていただきました。怪我はありませんか?」
特に襲われそうになっていた女探索者をちらり。
視線が合うと、彼女はコクコクと忙しなく首肯を返した。
無理をしている様子もないので大丈夫だろう。
「まずはありがとう。おかげで全員無事だ。……けど、これをあんたがやったのか?」
「そうですね。これでもAランク探索者……いえ、Sランク探索者ですから!」
ふふんっ、と胸を張る。
ドヤって感じだ。
流石にここで謙遜しても意味ないからな。
すると、わぁあああ! と歓声が上がる――事はなく。
「お、おう」
「すげぇ」
「レベルが違うな」
「てかこの氷硬すぎ」
「思ってたより自己顕示欲強めの高校生だな……」
小さな感嘆が広がった。
おかしいね。
レイジがのの猫を助けた時は『日本最強ヤバすぎ!』『かっこいい!』『しゅきしゅき大好き!』みたいな感じで、ネット中お祭り騒ぎだったというのに。
なんだこの差は。
まぁいいんだけどね。
おっさん連中からちやほやされても嬉しくないし。
別に負け惜しみじゃないし。
ほんとだし。
なんて話していると、遅れて七規と幸坂さんが合流。
「せんぱ~い、いきなり早いよ~。幸坂さん重いんだから、気を使ってあげてよ~」
「盾が、ね? 重いのは、盾が、だから。私は、重くない、から」
「わかってますって」
えへへ、と仲睦まじく笑い合う二人(七規は無表情)。
かなり打ち解けて見える。
(夜叉の森に潜るにあたって、三人で何度か顔合わせはしたが……それでも過ごした時間は短いし、二人のコミュ力がなせる業か)
七規は友人も多く、学内でも人気者。
幸坂さんもこの間まで彼氏がいたリア充だ。
ここに『同じパーティー』『同じ探索者』という共通の話題が生まれれば、仲良くならない方がおかしいという話である。
そんな二人を横目にしつつ、俺は大男へと声を掛けた。
「ところで皆さん付いて来ていたみたいですが、何か用でしたか?」
すると大男は渋い表情を浮かべて答える。
「あぁ、それか。悪いな。みんなSランクの実力が見たいって言って聞かなくてなぁ……俺はやめようって言ったんだぜ?」
「そうでしたか」
確かに有名人が来たら見たくなるのは人の性か。
正直、俺個人は別に問題はない。
見られて困ることもないし。
ただ今回は七規と幸坂さんの引率の仕事中。
出来れば早々にお帰り願うとしよう。
俺は再度口を開こうとして——。
「あっ、そうか! もしかして七規ちゃん!?」
ふと一人の女性探索者が何かに気付いた様子で、七規に近付いた。
「え、え?」
「やっぱりそうだ! 七規ちゃんだ!」
「七規の知り合いか?」
「いや、知らない人……どこかでお会いしましたか?」
嬉しそうな女性探索者に対し、七規は困った様子。
しかし女性探索者は気にしたそぶりも見せずに、苦笑を浮かべた。
「あー、ごめんごめん。大丈夫、知らなくて当然。初対面だよ。ただ七規ちゃんの写真は前に見せてもらったことがあってね、顔だけ知ってたんだ」
見せてもらったこと?
いったい誰から?
疑問符を浮かべるのは俺や七規だけでなく、彼女以外の探索者も同様。
いきなり何言ってんだこいつ、的な目で女性探索者を見ている。
すると彼女のパーティーメンバーと思しき男性が全員を代表して問いかけた。
「この子を知ってるのか?」
「うん! てかあんたも知ってるわよ!」
「えぇ?」
「ほら、志穂さんと正二さん……水瀬さん所の娘さんよ!」
「水瀬……って、えぇ!? マジか!?」
途端に他の探索者たちもわっと声を上げる。
あちこちから、
「水瀬んとこの!?」
「可愛いのは母親譲りか」
「無表情は父親譲りね」
と視線が七規に集中。
「はわ、はわわわわっ」
対する七規は聞いたこともない声を上げて、慌てた様子で俺の背後に隠れる。小動物の様でとても可愛い。服をキュッと摘まんでくるの、胸がどきどきして仕方ないよ。
俺は胸の高鳴りを堪えつつ、思考を巡らせる。
話から察するに、みんなが知っているのは七規の両親のことだろう。というか今更だけど、七規の両親って何者なのだろうか。彼女の保護者がおじい様であることから、亡くなっているのだろうことは察しているのだが……。
「えっと、七規の両親をご存じで?」
「そりゃもちろん! 夜叉の森じゃ二人がトップだったからなぁ~!」
「私も何度助けてもらったか」
「俺も俺も! あの時貰ったアドバイスのおかげでCランクまで上り詰めたぜ!」
「お前もか~!」
次第に盛り上がる探索者たち。
俺たちを置いて思い出話に花を咲かせていらっしゃる。
どうやら七規の両親も探索者だったらしい。
「にしても、あの二人の娘が探索者か……感慨深いな。相馬くんもそう思うだろ?」
「……え?」
はて?
何故そこで俺に話を振るのか。
それではまるで、俺が七規の両親と知り合いの様ではないか。
生憎と七規以外で水瀬と言う探索者に心当たりは――。
「……」
心、当たりは――。
ドクン、と心臓が跳ねる。
気付いてはいけないことに、気付いてしまう。
「おい、そのことは——!」
「え? ……あ、やべ」
慌てた声が、嫌に耳に残る。
(まさか……そんな)
と、生唾を飲み込もうとして、気付く。
俺の背後。
服の裾を握る彼女の手が、震えていることに。
視線を向けると、七規は俯いて動かない。
それを見た瞬間、俺はすべての動揺を飲み込む。
飲み込んで、意識を無理やり切り替える。
「すみません。俺が始めたことで恐縮ですけど、ダンジョン内での立ち話は危険ですのでそろそろ……それと、俺たちはもう少し潜る予定ですが、本日は二人の引率の仕事でもありますので、後を付けるのはここまでにしていただけたら幸いです。後日俺一人ならいくらでもお見せしますので」
ちらりと大男さんに視線を送る。
すると彼は「任せろ」と言わんばかりに首肯を返してくれた。
これでひとまず安心だろう。
仮に言う事を聞かない人がいても、何とかしてくれる。
実力では劣ろうと、彼の威圧感はかなりのものだ。
逆らえる者も早々居まい。
俺は小さく頭を下げてから、七規の手を取り幸坂さんと一緒に同所を後にするのだった。




