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第66話 旅立ち

「お兄さま。お荷物の方はいかがでしょうか?」


「うん。言われたとおり確認したよ。問題ないかな」


「あとは新幹線のチケットですね」


「ちゃんとあるね。それで、紫月しづき。ほんとにひとりで大丈夫?」


「私のことはお気になさらないでください。むしろ、お兄さまがきちんと東京にたどり着けるかの方が心配です」


「たぶん平気・・・なはず」


「うふふ♪ なんかお兄さまらしいですね」


 実際に東京へ行くのははじめてのことで。

 正直、ちょっと不安もある。


 それに。


(紫月と離れるのがこんな悲しいなんて)


 シスコンみたいでなんか嫌だから。

 口では言わないけど。

 

 ぶっちゃけ、けっこうツラい。


 思い返してみると。

 紫月とは生まれてからずっと一緒だった。


 こんな風に離れ離れになるのもはじめてのことだし。


(いや、なに感傷に浸ってるんだ。あさってには帰ってくるじゃん)


 くどくど考えてたら、いつまで経っても出発できない。

 紫月もなおさら不安になるだろうしね。


「それじゃ。そろそろ行ってくるよ」


「はい。よい結果となるように自宅こちらで祈ってますね。お兄さま、お気をつけて」


「うん。紫月も元気で」


 どことなく大げさな別れを告げると。

 玄関のドアを開けて外へ出る。


 ふわっと、夕方の涼しい風が吹き抜けた。

 

 こうして。

 手を振る妹に見送られながら、僕は生まれ育った街を出ることに。




 ◇◇◇




 そのあと。


 いくつかの電車を乗り継いで、新幹線で2時間とちょっと。


(うわぁ・・・)


 ターミナルの駅に降り立ち、人の数にまず圧倒される。

 

 夏休みということもあって。


 キャリーバッグを持った観光客や外国人、ファミリーや若い学生の姿が目立つ。

 ふだんよりも人が多いのかも。


(それにしてもすごい)


 さすが日本の首都。


 よく眠らない街とか言うけど。


 東京に来て実際に体験してみないと、言葉の真の意味はわからないかも。

 夜に輝くビルの群れや色鮮やかなネオンが眩しい。


 それで、この真下には。

 無数のダンジョンが広がってて。


 道を急ぐ大勢の人々は、そのことをまるで気にしてないように見えた。


(当たり前のように日常に溶け込んでるよね)


 僕なんか。

 ほとんどダンジョンが現れてからの世界しか知らないわけだけど。


 それでも。

 ちょっとした違和感はある。

 

 これはいったいなんなんだろう、って。


 だからこそ。

 

 人類未踏の最深部を目指すことは、とても意義のあることだって言えた。


 そのためにもまずは。

 クランが課す試験を突破して、ライセンスを入手する必要があって。


(うん。頑張ろう)


 今日は近くのホテルに泊まって。

 明日は探索者クランへと赴き、受験することになってる。


 きらめく夜の東京を歩き。


 僕は明日への期待に胸を膨らませた。

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