第24話 祝言亭八咫烏ワデア その2
(ぜんぜん気づかなかったよ)
こんな風に外で探索者と会うのははじめてのことで。
ダンジョンの中だと、スタイルの影響で容姿や衣服が変わっちゃうから。
地上で再会しても誰だかわからなかったりするんだよな。
「えっと、重騎士のスタイルでしたっけ？」
「おっしゃるとおりですわ。優太さまは槍士でしたわよね♪ わたくし、はっきり覚えておりますわ♡」
指を組んで天条院さんはなんだか嬉しそう。
たしかに。
一昨日はろくに挨拶もできなかったから。
あの女の子がどうなったのか、少し気になってたんだよね。
「それにしても驚きましたわ。こんなに可愛らしい妹さんと一緒に暮らされてたんですわね。それに紫月さん。わたくしのことをご存じでいらっしゃったみたいなんですの♪」
「とても有名な配信者の方ですから」
「そうなの？」
「はい」
紫月は僕なんかよりもぜんぜん配信者に詳しい。
その紫月が言うんだから間違いない。
「いちじよじ所属のアイドルダンチューバー。祝言亭八咫烏ワデアさん」
「えっ・・・ワデアさん？」
コメント欄に頻繁に書かれてた名前だ。
「天条院さんはそちらのユーザ名でダンチューバーとして活動されてるんです。チャンネル登録者数は200万人。まさか、お兄さまが助けられた女性がワデアさんだったなんて・・・正直驚きました」
「おほほほ♡」
驚いたことに。
天条院さんはめちゃくちゃ人気の配信者みたい。
(でも、そういうことか)
ようやく点と点が線で繋がる。
やっぱり、天条院さんの配信に僕が映り込んだかして。
それで多くのリスナーさんが配信を見に来てくれたんじゃないかな。
登録者数200万人の超有名人の配信に映ったのなら。
あれだけ大勢のリスナーさんが僕の配信を見に来てくれたことも納得がいく。
理由はどうあれね。
◇◇◇
一昨日の放課後。
僕は『池袋ダンジョン』に潜り、いつものようにダンジョン配信をしてて。
もうすぐ最下層。
そんなとき、1個のジェムが反応する。
それは、徘徊種っていう危険度の高い敵が出現したことを知らせる道具遺物から排出されたもので。
場所は、近隣の『新宿ダンジョン』地下2階を示してた。
それで僕は。
今日と同じようにすり抜けを使う。
すり抜けは、なにもダンジョンの壁しか通用しないわけじゃなくて。
(実は次元の狭間とかも、すり抜けることができちゃうんだよね)
リライトの力を発動させて、『池袋ダンジョン』から『新宿ダンジョン』まで瞬時に移動すると。
そこで徘徊を続ける記憶域シヴァドラゴンを発見する。
放っておくことはできない。
誰かが討伐しなくちゃいけないエネミーだ。
そこで。
たまたま襲われてしまってた天条院さんを助け出して。
ひとまず、僕は徘徊種を倒した。
というのがここまでの顛末だ。
◇◇◇
「あの日はすみませんでした。ろくに挨拶もせず去っちゃって。門限が迫ってたんで、つい」
「とんでもございませんわ。優太さまが謝ることなどなにひとつありませんのよ？ むしろこちらがお礼を言い足りないくらいなんですから」
両手をスカートの前で揃えると。
天条院さんは礼儀正しく頭を下げた。
かと思えば。
「うわぁ！？」
がしっ！
ふたたび僕に抱きついてきて。
今回は首をしっかりホールドされてしまい。
「危ないところを救っていただき、誠の誠に感謝しておりますの。優太さまはわたくしの命の恩人ですわ。この気持ち、ご理解いただけてますかしら？」
「え、ええ。もう十分伝わってますんで」
「ホッ・・・そうでしたか。うふふ♪ よかったですわ♡」
あぁ。
また香水のいい匂いが・・・。
「お兄さま。なんだか嬉しそうです」
そんな僕を見て、紫月はなぜか笑顔だ。
いや。
微笑んでないでちょっと助けてほしいんだけどっ・・・。
