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【未完】偽装結婚相手に一目惚れしました。  作者: 工具
第二章 なんかアレな感じの恋愛イベントはっじまっるよー

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45 乙女かっつーの

 翌朝のグリシーネ嬢は驚くほどに大人しかった。より正しくは、俺やオルテンシア嬢を招待して開くお茶会と同じくらいにホストとしての役割を全うしており、旅行の計画を立て始めてからのハイっぷりが鳴りを潜めたと言うべきか。日課となっている皆揃っての朝食の席でもそれぞれの食べる速さを見て話を振り、関わりの薄い者同士がコミュニケーションをとるきっかけを作りと真っ当なホストだ。


「皆と遊ぶ時間だけじゃなくて、パートナーとゆっくりする時間をとってよかっただろ」


 昨日までと今日の間に何かあったかといえば、グリシーネ嬢が俺とオルテンシア嬢の初々しいやり取りに中てられて王子様と二人っきりの時間をたっぷり満喫したくらいだ。初日にも二人の時間を取ってたはずだが、そのときはハイになり過ぎてたのか、それとも足らなかっただけなのか。


「うん。けんちゃんに恋愛のことを言われるのは癪に障るけど、確かにピースとの時間をガッツリ過ごして落ち着いたわ。一ヶ月しかないし皆と楽しまなくっちゃって焦ってたのよねぇ。楽しまないといけないって張り詰めて色々やって楽しめなかったら本末転倒っていうね」


「ああ、確かに。何かをして楽しむんじゃなくて、楽しむために何かをしないといけないって感じだったかもな」


 テーブルを囲んでいる面々を見回せば、皆それぞれ会話を挟みつつ食事をして十分旅行気分を満喫しているように思える。空回りしていたグリシーネ嬢が落ち着いてようやく人心地付いたってところだろう。


「そうだ。グリシーネ嬢、夕方の砂浜でお散歩デートって鉄板だと思わないか」


「乙女かっつーの」


 レスポスンスが速い。そして否定できない。俺の恋愛観なんて、日本に居たころ『星の海を冒険しよう!』の合間に読んだ漫画や乱数を調整する単純作業の片手間に見たアニメを参考にしたものだ。そして、実際の恋愛にそんなもんを活かそうとすれば地に足着いていないロマンチスト野郎だと思われるという客観性も一応持ち合わせている。


「南の島で恋人と過ごすってそういうもんじゃないのか? 丁度良い砂浜が一箇所しかないし、三組のカップルがそれぞれふらふらしてばったり出くわすのも居心地悪いだろうって二箇所ほど工事して砂浜を作ろうかと思ってたんだが」


 三箇所とも雰囲気が違えば、同じ砂浜デートでも飽き難い思う。


「気の遣い方のスケールがでかいよ。というか、そんな大規模な工事をこれから始めていつ終わるのよ。今回の旅行で使えないんじゃないの?」


「魔法だって術封器だってあるし飛竜みたいなファンタジー生物も工事に使えるし、砂浜作るのも十日とかからないよ。デートに使うだけならそこまで広範囲の工事にならない」


「でもさ、そういうのって生態系の変化とか大きくて危ないんじゃないの? 護岸工事したら九十九里浜がなくなったって聞いたよ」


 フォークをくるくるともてあそびつつ、グリシーネ嬢が不安そうに懸念を示す。行儀悪いよ。とはいえ言ってることはもっともだ。そんな話もあった。


「この島の別荘を使えるようにって作業始めた時に島のあちこちで地形調査や生体調査もしたんだけど、そのデータを専門家に見てもらって作業計画を作ってもらったから大丈夫」


 嘘です。この一週間での思いつきなのでその間に調査したし、クリスと護衛を交代する前にアルが計画を立ててくれました。万事における天才として生み出された第五世代バイオロイドであっても学ばなければ専門家といえるほどの知識は身につかないわけで、惑星調査船の環境シミュレーターががんばってくれました。専門家というならこっちだな。


「うーん……安全なら……でもそんなことで……」


 グリシーネ嬢が気にしてるところがなんとなく分かった。個人の意思によって大きな変化を環境に与えるが悪いことに思えるのだろう。でもそれって俺の居た時代の一般的な日本人の考え方だ。ここは日本じゃないし、グリシーネ嬢は一般人じゃない。


「グリシーネ嬢は、個人の意思で山一つ使った離宮の建造とかさせられちゃう立場の人間だぞ。一般人の規模で物事を考えすぎるとこの先大変じゃないのか」


 プロイデス王国は周囲を聖獣の縄張りに囲まれていることで他国の軍事的な干渉が少なく治世も安定しているので大国ではないが豊かな国であり、グリシーネ嬢はその豊かな国の次期王妃である。ゆくゆくは次期国王を産むことにもなる。プロイデス王国の大規模建築の技術は高く、王妃の為の離宮を建造することも珍しくはないのだ。ちなみに墓はそんな大きいのを作らない。いくらがんばっても墓はよく無いモノを集めてしまうのでいくら偉い人でも墓は一軒家まで大きくならない。現プロイデス王のおっさんも古い時代の王様達の入った大墳墓の浄化と警備に常々頭を痛めてる。


「へぇ?」


 グリシーネ嬢がだからどうしたと、何が言いたいのか分からないと首を傾げている。


「だから、ビーチ作るくらい大したことじゃないと感じる価値観も持たないとダメだよって言いたいっていうか……ああ、あと自然破壊云々のついでに言うと、王子様が出張るモンスター討伐は被害規模が山一つとか湖一つとかで済めば安いくらいの被害でてるぞ。そんなのを一人で片付けられるから、ダイス女史やジルは英雄って呼ばれる」


「まじで?」


「まじでまじで」


「オーシィ卿。済んだ話でリシーを不安がらせないでくれ」


 おっと。あっちの方で喋ってた王子様がいつの間にかこっちの話を聞いてたみたいだ。いや、同じ部屋で話してる別グループの話題を気にかけるくらい貴族として当然だな。


「もしかして、その辺の勉強はまだだったのか」


「モンスターって呼ばれてる生き物がすごい危ないのは知ってたけど、地形が変わるとか言う話は始めて知った」


 知ってる知ってるってノリで返されると思って話題にしたんだけど、まずかったか。グリシーネ嬢の立場で詳しく知らないってことは、理由は知らんが結構きつく情報制限されてるんじゃないの。


「あーあー。そうだ。本館に大浴場あるんだけど知ってたかグリシーネ嬢」


 伝家の宝刀、強引な話題転換。


「いや、知らないけど。何で急にお風呂?」


 本館の探索とかしてそうだと思ってた。いくらなんでもそこまで子供っぽくないよな、ごめん。でも、この館は俺主導で改築した王家の隠れ家的別荘というか別邸というかなので、グリシーネ嬢が入っちゃだめなのは客に貸してるところだけなんだぜ。イベントを始めそうなので教えないが。


「不味そうな話題だったんで多少無理があっても方向を逸らそうっていうオレの気遣いを汲んでくれよ」


「カリキュラムで予定されている事柄を多少先に知ったとてさしたる影響はないぞ……」


 王子様がちょっとかわいそうなものを見る目で俺に告げる。つまりなんだ。モンスター討伐に関する話は良いが、王子様が戦場に出ることの危険性には触れるなってか。どっちにしろ無理だろ。


「モンスター関連の話はやめよう。頭イイヒトの考えたカリキュラムにはそれなりの理由があるはずだし、急いで知る必要性があれば相応しい人が教えてくれるだろ。それよりも大浴場だよ大浴場。今日はみんなでミニダンジョン探索だろ? 終わったらオリザ嬢と一緒に使ってみたらいいんじゃないのか?」


「まあ、モンスターのことは流してあげよう。本当に知りたいなら自分で調べればいいんだし。でも、なんで大浴場って言ってるのに私とオリザだけなの? シアは? ダイスさん……は一応使用人か。でもけんちゃんなら別にダイスさんが一緒でも良いって言うでしょ? 私たちは良くてシアはだめな理由でもあるの?」


 俺が説明するの面倒だなぁ。ちらりと王子様を視線をやってみる。溜息を吐かれた。さすがに王子様に説明丸投げするのはだめか。


「プロイデス王国の上流階級は使用人以外と風呂入る習慣がないよ。その使用人だって身の回りの世話するのが目的だったり風呂での話し相手になるのが役目であって一緒に寛ぐのとは違う。市民階級なら大衆浴場とかあるけどな。だからオルテンシア嬢やダイス女史に日本人のノリで一緒に風呂入ろうって持ちかけるなよ」


 王子様が微妙に納得いってない雰囲気だが、より正確な理解をグリシーネ嬢に求めるなら自分で説明するか俺以外の人に説明させなさい。


「その辺をシアに言って、シアとダイスさんが頷いたら皆で大浴場使っていいの?」


「そーゆーこと」


「じゃああとで……っとみんなご飯食べ終わってるね。よし、今日は談話室には行かないでミニダンジョンへ行く為の準備に充てよう。お昼は……たまには外で食べるのも良いよね。お弁当準備してもらっても良いかな?」


「畏まりました」


「準備整えたら本館のエントランス集合ね。時間は二時間もあれば十分かな。はい、一回かいさーん」


 他の五人が出て行ったあと、お弁当を用意して欲しいというグリシーネ嬢の注文を受けていた使用人のバイオロイドにプロイデス王国式のお弁当と日本式のお弁当を作っておくよう追加注文しておく。グリシーネ嬢とオリザ嬢にはちょっとしたサプライズになるだろう。

 さ、オルテンシア嬢のミニダンジョンを探索する準備をしに行きますか。




「けんちゃんおめー、ダンジョン舐めてるんですかー」


 オルテンシア嬢とダイス女史の部屋のリビングに連れ込まれて二人が楽しそうに準備しているのを見て和み、集合時間に合わせて本館のエントランスに入るなりグリシーネ嬢に叱られた。


「けんちゃんはいつものライダースーツだし、シアはお洒落な乗馬服って雰囲気だし、なによりダイスさんはいつものメイド服じゃん。ダンジョンなめてんのかおらー」


 おらーとか言う割りに叫んだりしないグリシーネ嬢は本気で怒ってるわけじゃないっぽい。


「俺のこれ、普段から着てるけど戦闘用のパワーアシストスーツだってこと忘れてるだろ。オルテンシア嬢の格好はグリシーネ嬢とほぼ変わらないし、ダイスさんはアレで事前の調査もしてたから何の問題もない」


「この際だし言わせて貰おう。夏の南の島でその革のツナギは視覚への暴力だ」


「俺のこのパワーアシストスーツは冷暖房完備だ。俺から言わせて貰うと、俺以外の人が来ているガッチリした貴族らしい服の方が視覚への暴力だ」


 お嬢さん方は何着てても良いよ。知性や品性がまとも以上なら、着飾ったお嬢さんはだいたい目に優しい。大事なのは肌色の面積じゃないんだよ。着飾ることを楽しんでいることが分かる空気なんだよ。


「けんちゃん、なんんかすごいくだらないこと考えてない?」


「ぜんぜん」


 俺ってそんなに顔に出易いんだろうか。


「まぁ、いいや。にしてもなあ。もっとこう、革鎧とかダンジョンに相応しい格好があると思わない? 私のこれ、乗馬服じゃん。これはこれでカワイイけど」


 俺とグリシーネ嬢のやり取りを何を考えているのか分からない微笑で見つめていたオリザ嬢も乗馬服みたいな服だ。お嬢様の着る動きやすい服って乗馬服一択なのかな。


「私はもっと冒険者とか探検家みたいな服がよかったのに、オリザがさー」


「グリシーネ嬢が調査報告を聞かないようにしてた所為だが、そんな格好しなくて良かったってオリザ嬢に感謝するんじゃないかな」


「どーゆー意味?」


「ネタバレはしませーん」


 どうせミニダンジョンに入ればすぐ分かる。


「ふーん。それより、みんな揃ったし行こっか。っとお弁当は……」


「持った持った」


 グリシーネ嬢、パインズ王子、オリザ嬢、ウォルティース公子、オルテンシア嬢、ダイス女史、俺の七人にあとはステルスしていないデボンとクリスを含めたそれぞれの護衛と小間使いで三十人強の集団のお弁当を、何も持っていない俺が持っているという言葉にグリシーネ嬢が胡乱な目を俺に向けた。


「けんちゃんが?」


「もったもった」


「はぁ……しゅっぱーつ」


 テキトーに答えたら何かを諦められた。空間圧縮収納箱にちゃんと入ってるのに。空間接続系はミニダンジョンや神様の鍛錬場だと使えないことがあるからね。多少収納量は控えめになるが空間圧縮の方が確実だ。箱自体は文庫本くらいの大きさなので一見すると大荷物を持ってるようには見えないのは仕方ない。


 さ、みんなでミニダンジョン探索を楽しもうじゃありませんか。

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