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「それでも皆が皆そうではなかった。」
「当時の長の娘、つまり、グレゴリーたちの祖母じゃな。あの子は長を慕ってくれての。病気のことを知って、「助かるなら手を取るべきだ。」と、「治してくれる者を殺すなどとんでもない。」と言って、一族の者、特に母親たちを説得してまわっておった。己の声を使ってな。」
「じゃが、当時の黄の一族では娘は父親の所有物じゃったから、娘の反抗を父である長は許さんかった。当代一と言われた声の使い手を病の巣窟に放り込んだのじゃ。」
「娘と言っても、まだ子供と言っていい程の年じゃった。病巣に放り込まれて、たちまちホーソン病にかかってしまった。」
「それでも明るく気立ての良い娘であった。子供たちを励ましての。」
「うむうむ。長の薬も効いてきて、かなりの数が回復に向かったんじゃ。」
良かった。病気になって親に捨てられるなんて、こんな酷い話はない。
回復したなら、親元に戻れたんじゃないだろうか。
「そこまでは良かった。」
「それで終わっとれば良かった。」
「まさかあのようなことをするとはの。」
「あのようなこと…?」
まだあるんだろうか。
今までの話でも十分に酷いと思うのに。
「火をつけたんじゃ。子供たちを世話していた建物に。」
「っっ。」
「恐ろしいことをするもんじゃ。」
「あれで一気に弱ってしまった子もおった。」
「誰が…、そんなことを。」
病気の子供のいる場所に火をつけるなんて。
閉鎖的なんてものじゃない。異常だ。自分の子供はいなかったんだろうか。
「火をつけたのは子供を見捨てた占い師じゃった。」
「子供が呪われたせいで仕事が無くなったと言うてな。火で呪いを消すのだとわめいておった。」
「愚かなことよ。呪いなどではないと言うのに、こちらの話を聞きもせずにわしらを呪って自害した。」
自分の子を殺すために子供を全て殺そうとしたなんて。
現代日本で育った私には信じられなかった。あまりの話に愕然とする。
「そんな…。その子供は、無事だったんですか?」
「おお。無事じゃったぞ。」
「そのまま里にはおれまいと、長が引き取っての。長の娘もじゃ。この2つはすでに居場所なんぞありはせんかった。」
「それで良かったのよ。2つは大きくなって番になった。子にも恵まれた。」
幸せになったんだ。よかった。
でも、夫婦になったふたりがメルバさんに引き取られたなら、他の子供たちは?
「他の子供たちは…。」
「一応、親元へは戻ったはずじゃ。周りへの手前、仕方なしに捨てなくてはならなかった親もおったし、子も戻りたがった。」
「当時から子供は少なかったが、ホーソン病で一気に減ってしもうたのも戻れた理由にあったようじゃ。このままでは一族が絶えると思ったんじゃろうな。当時の長も見て見ぬふりをしておった。」
「一族が続いとるということは、戻った子らは無事に大きくなれたんじゃろう。それ以上はわしらにもわからん。ホーソン病の件があってから、黄の一族とは関わりを避けるようになったからの。」
「そんなことがあったんですか…。」
確執なんてものじゃなかった。
一方的な暴力や虐待の話だった。
これはどう聞いても当時の黄の一族が悪い。
医者を追い出そうとするのも理解できないけど、他の一族の長であるひとを殺そうだなんて、戦争でも起こす気だったんだろうか。
…そんな知識もなかったかもしれない。
病気が呪いだと信じるような土地柄だ。
自分たちだけ助かりたい。
ただ、それだけだったのかもしれない。
あれ?でも、メルバさんに引き取られた長の娘さんってグレゴリーさんたちのお祖母さんなんだよね?
グレゴリーさん達は黄の一族を率いて外に出て来たって話だったのに。
「あの。グレゴリーさん達って黄の一族を率いて出て来たんですよね?でも、お祖母さんはメルバさんに引き取られたって…?」
「おお。その話はしとらんかったの。」
「ほっほっ。まだまだこれからじゃ。」
「うむうむ。茶でも淹れ直すかの。」
まだまだこれからですか。
とりあえず、お茶は私が淹れよう。




