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そのままキルビルさんとの挨拶は和やかに終わって、早々に守備隊に帰ることになった。というか、逃げてきた。
何でも除け者にされたひと達が「是非、お食事をっ。」と勝手に準備をしていることがわかったからで、キルビルさんが気をきかして、こっそりと見送って下さったんだよね。
助かった。
まだ勉強中でマナーもちゃんとわかってない私にはお食事に呼ばれるのは辛い。
玄関の取り次ぎのひとはまた慌ててたけど、にっこりと「お邪魔しました。」と礼を取ると呆然と見送ってくれたのが印象に残った。
「ほうほう。順調にいっとるようじゃの。」
「青の一族も未だに変わらんのう。」
「あそこは伝統と形式に縛られとるからの。」
私の話をエルフの長老さん達がフムフムと頷きながら聞いている。
守備隊に戻ったら私だけ医務室に呼ばれて、行ってみたら長老さん達が来ていた。
どうやら、オルファさんの件を聞いて出向いてきたらしい。
メルバさんはもう少ししたら戻るとかで、それまで一緒に待っているよう言われてお茶をしている。
この間お世話になったお礼とここ最近の出来事をかいつまんで話すと、興味津々で聞いてくれた。
トカゲの一族の話ではホッとして、ヘビの一族の話ではアニスさんの評価が上がり、黄の一族の話では昔のことを話してくれた。
「あそこはのう。スタグノ族の中でも奥地に暮らしておってな。」
「閉鎖的でよそ者を滅多に信用せんかった。」
「一族で固まって暮らしておるからの。前にホーソン病が流行ったときもあそこが一番被害が酷かったんじゃ。」
そう言って始まった話は私が教わってない黄の一族の話だった。
黄の一族は昔から薬を扱う職業と占い師が兼業になっていたらしく、薬で治らないものは祈祷で回復を祈っていたそうだ。
他の一族が未知の食べ物を求めて旅立っても、閉鎖的な黄の一族だけは動こうとしなかったとか。
それを変えたのがグレゴリーさんの代の長さん。
つまり、オルファさんのお父さんだ。
黄の一族は声に魔素を乗せる特殊な力を持っていて、それを操って雨を降らせたり、周囲をまとめたり出来たらしい。
でも、その能力者も年々数を減らし、長の一族だけがかろうじて能力者を代々排出していたそうだ。
それも危うくなってきた頃、干ばつが頻繁に起こるようになり、黄の一族は水も食べ物もろくに手に入らない状態に陥ってしまった。
助けを求めようにも、それまで外と連絡を絶っていた黄の一族は青の一族にも赤の一族にも連絡をする手段が無かったのだそうだ。
そのままだったら、黄の一族は全滅していただろうと長老さん達はため息をついていた。
それに対抗するように立ち上がったのがグレゴリーさんとオルファさんのお父さんで、おふたりは双子でどちらも強力な声の能力を持っていた。
交互に能力を使い、一族を説得し、ようやくルシェモモやその近郊に進出して渇きと飢えから解放された。
これが黄の一族の今の状態に落ち着くまでの話。
それくらい外に対して懐疑的で閉鎖的だったわけだ。
それで問題の1000年前の話なんだけど、メルバさんが薬を持って訪ねて行った時の話は酷かった。
「呪いじゃと言うて、病気の子供を街の端っこに見捨てたも同然の扱いでの。少しでも疑いがあればそこに放りだされてな。」
「それも被害が拡大した原因じゃった。」
「長が見かねて治療を始めたら、立場が追いやられると思ったのか、一族の占い師たちがこぞって長を攻撃してきおった。」
「あれは酷かったのう。わしらも後から手伝いに行ったが、占い師どもは「病の原因は長だ。」「長を殺せば病は静まる。」と街中で堂々と説いて回っておった。」
「自分の子供もかかっておったというのに、その子は「我が子にあらず。」と言うて見捨てておった。」
「石まで投げるやつもおった。あれはほんに酷かった。」
青・黄・赤の順で長老さん達が話してくれたのはまるで中世の話だった。
病は呪いで祈祷が治療?ばかばかしい。
それで、治療出来る人がきたら殺そうだなんて。
そりゃ、グレゴリーさんが「お願い出来ない。」って言うはずだよ。




