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はらはらしながらキルビルさんの試食を見守ったけど、そんな心配は杞憂で、水菓子は大絶賛だった。
良かった。でも、すごく心臓に悪かった。
やっぱり、キィさんにはしばらく差し入れは無しにしよう。
「これは美味しいっ。見た目も涼やかだが、喉の通りも良く大変滑らかです。きな粉は苦手な方もおられるでしょうが、蜜と合わせれば問題なさそうだ。ハルカ様はこのレシピを公開されるおつもりと聞いていますが、本当によろしいのですか?」
「はい。私が作っているだけではレシピはいずれ失われてしまいます。それより、故郷の味を出来るだけ多くの方に知って頂いて、レシピを残して欲しいのです。」
「成る程。素晴らしいお考えです。技術の継承と保護は別のものですからな。私に出来ることがあれば協力させて頂きます。」
「ありがとうございます。」
キルビルさんはお菓子の店をいくつも経営しているらしく、レシピの公開のための料理教室を開くと言うと、是非、店の調理師も参加させて欲しいと言われた。
この分だと、レシピ公開の料理教室は申込みが殺到しそうだ。
日程だけでなく、1日でも何回かに分けて教えた方が良いかもしれない。
参加の了承をするととても喜んでくれて、その代わりというか、式で使う花の手配は全面的にバックアップしてもらえることになった。
花を飾るのはもともとスタグノ族の習慣だったらしく、花の流通に関するお店はスタグノ族がやっていることが多いらしい。
ルシェモモでは青の一族が広めたせいか、青の一族が元締めのような立場にいるのだそうだ。
その大元締めからの助力の約束だ。これはとても助かる。
ルシェモモでの式はあらゆる場所に花を飾って、花びらをまき散らす。
最初の式がそうだったからなんだけど、見た目にもとても華やかなため、その後も伝統として受け継がれているそうだ。
しかも、今回はクルビスさんと私の式だから、街じゅうに花を手配しないといけない。
それだけの花の手配は青の一族の助力なしには不可能だから、キルビルさんの提案はとてもありがたいものだった。
「交換条件のようになってしまって申し訳ない。だが、我が一族は商売を生業としております。街じゅうの花の手配となると、見返りなしには一族を納得させられないのです。」
「それは当然のことです。むしろ、ここまで話が早く進むとは思っていませんでした。」
クルビスさんが驚いたように言うと、キルビルさんが私の方を見る。
「ハルカ様のレシピにはそれだけの価値があります。水菓子はルシェモモを代表する菓子になるでしょう。」
「ありがとうございます。決まり次第、一番最初の教室をお知らせいたします。」
「よろしくお願いします。」
私の返事にキルビルさんが満足そうに頷く。
青の一族とトカゲの一族はそこまで懇意ではないのにここまで早い対応を決めてくれた。
それはつまり、それだけ私のレシピに商機があると踏んだということで、出来るだけ早くキルビルさんのお店の調理師さんにレシピを教えないといけないということだ。
それくらいなら、私の裁量で何とか出来る。
普段はクルビスさんに頼りっぱなしだけど、私にだって出来ることがある。
それがとても嬉しかった。
「ふふふっ。良い伴侶様を持たれましたな。」
「はい。私にはもったいない程の相手です。」
私の返事が良かったからか、キルビルさんとクルビスさんで私を褒めはじめた。
ちょっと照れるけど、どうやら私の印象は良かったようだ。上手くいって良かった。




