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「この素晴らしい意匠と親交の証ゆえに、代々長の執務室にこのドアを取り付けることになっているのです。」
長の執務室?
え。聞き間違いじゃないよね?
応接室飛び越えて、長のお部屋に招かれたのか。
…どうりで玄関から遠いわけだ。クルビスさんも驚いている。
「よろしいのですか。」
「ここならうるさい連中が邪魔しに来ませんから。」
うるさい連中って、さっきの取り次ぎの方みたいな?
もしかして、普通に応接室に行ってたら部下の方がずらりと並んで出迎えてくれたんだろうか。
(それこそ時代劇だわ。良かった。普通の対応にしてもらえて。)
「お気遣いありがとうございます。伴侶はまだこちらに来たばかりで、いろいろと不慣れなものですから助かります。」
私がホッとしたのと同時にクルビスさんが青の一族の長さんの気遣いに感謝する。
ホントにありがたい気遣いだ。下手したら緊張で固まってたかもしれない。
私も心から感謝の礼をした後、タイミングもいいので手土産を渡すことにした。
さっきから視線が手土産の箱にちらちらと移ってたしね。
「おおっ。これがウワサの水菓子ですかな?きな粉もあるっ。キーファの言っていた通り、何と香ばしいっ。」
あ。キーファさんとは知り合いなんだ。
守備隊の副隊長さんだし、同じ青の一族だもんね。
「っと。これは失礼。まだ名乗ってもおりませんでした。私はスタグノ族、青の一族が長キルビルと申します。トカゲの一族の次代殿にはいつも兄とキーファがお世話になっております。」
「トカゲの一族の次代の長クルビスです。こちらこそ、キィランリース隊長とキーファ副隊長にはいつも助けてもらっています。あの2つは無くてはならない逸材です。私の伴侶も何かと世話になっております。」
ここでクルビスさんから視線で続けて名乗るように勧められる。
キィさんの弟さんだったんだ。お世話になってるし、きちんとご挨拶しないと。
「キィさんとキーファさんにはいつもお世話になっています。里見遥加と申します。どうぞ遥加とお呼び下さい。」
主に味見でお世話になっています。
キィさんとキーファさんの評価が良いと、大抵のひとにウケがいいんだよね。
おかげで水菓子もきな粉も定着しそうだし。
食にうるさいってのは誇張じゃなかったわけだ。
「そうですか。それは良かった。兄からも聞いています。ハルカ様の菓子は舌がとろけるほど美味だと。」
キルビルさんのセリフにギョッとする。
ちょっと、キィさん。何ハードル上げてくれてるんですか。
ウケなかったらどうしてくれる。
…そうなったら、キィさんへの味見のお願いはしばらく無しにしようと秘かに心に決めた。
その頃、北の守備隊の術士部隊隊長室では…。
「ぶるっ。…キーファ。何だか悪寒がする。」
「なら、今日は室内でお仕事しましょう。はかどりますよ。」
「キーファ、冷たいっ。「大丈夫ですか?」くらい言ってくれてもいいのにっ。」
「心配ですよ?この書類の山のせいで、隊長のお顔も拝見出来ず、お加減を見てさしあげることも出来ないのですから。」
心配そうな声とは裏腹に部屋の気温が数度下がる。
キーファの怒気が書類の向こうからヒシヒシと伝わって、書類があって良かったと思っちまった。
…溜め込んじまったのは悪かったけどよ?
カメレオンやイグアナの周辺を探るのに忙しかったんだぜ?
キーファもわかってるから、これ以上何も言わねえんだろうが…。
ぶるるっ。おお、寒みい。このままじゃ凍え死ぬわ。
「…頑張りまーす。」
とりあえず、意欲は示すと若干気温が上がった気がした。
よし、今のうちに片付けっか。んで、ハルカの置いて行ってくれた菓子で休憩だ。
にしても、何だったんだろうな?あの悪寒。




