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「トカゲの一族、次代様~。伴侶様~。おな~り~。」
何時代?
浪々と響き渡る取り次ぎの声に驚き固まる。
今日はスタグノ族、青の一族の長のお宅にお邪魔している。
黄の一族にお邪魔してから3日後に青の一族、そのまた3日後に赤の一族に訪問することになっていて、ちょうど真ん中の日というわけだ。
黄の一族の長のお宅は大きい半球の建物が1つあるだけだったけど、青の一族の長のお宅は小売り店サイズの一番小さい半球や一般的な中くらいの半球の建物がいくつも連なっていた。
玄関にあたる小さな半球には取り次ぎの係のひとが二人いて、ひとりが訪問者の確認をすると、もうひとりが今のように声を張り上げて訪問者が来たことを奥に知らせるようだった。
取次ぎのひと達は、薄い青緑の体色に黄色い瞳をしていて、カエルに似た顔に表情はなかった。
今まで現代風のシンプルな対応しかされなかったから、こんな大げさなことをされるとどうしていいかわからない。
私の驚きを感じ取ったのか、クルビスさんがそっと手を握ってきた。
クルビスさんは落ち着いている。
きっと知ってたんだ。大丈夫だと言うように目を細めてくれた。
(うん。クルビスさんもいるし、大丈夫、大丈夫。)
心の中で唱えるようにして、この後来るかもしれない時代劇みたいなもてなしに備える。
私が落ち着くのと同時くらいに奥に繋がるドアが開いた。
「ようこそおいで下さいました。」
出迎えてくれたのは青緑の体色が鮮やかなカエルに似た面立ちの男性だった。
背は私より高くてクルビスさんより低い。
でも、体格はがっしりしていて、身長以上に大きく見えるひとだ。
取り次ぎのひとと違い、このひとは感情豊かな表情をしている。
黒い瞳が面白そうに輝いていて、なんだかキィさんに似ているなあ。
「お、長っ。」
「なりませんっ。このような場に長自ら出向かれるなどっ。」
取り次ぎのひと達が慌てて出迎えてくれた男性を押し返そうとする。
「長」という単語にクルビスさんと思わず顔を見合わせた。
「いいではないか。今時、こんな仰々しい取り次ぎなど、どこもしておらぬ。トカゲの一族の次代殿と伴侶殿だぞ?長が出迎えなくてどうするのだ。」
ため息とともに、長と呼ばれた男性が取り次ぎのひと達を下がらせる。
大げさなことはお嫌いみたい。良かった。
今日一日、時代劇みたいな会話をしないといけないのかと思った。
でも、不思議。話した時の雰囲気もキィさんに似てる気がする。
もしかして、親戚か何かかな?
キィさんからは何も聞いてないから、聞かない方がいいんだろうけど。




