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「ふ~ん。それで魔素を抑えて来てほしいって話だったんだ~。」
メルバさんが例の生き物を見ながらそんな感想をもらした。
今は守備隊の会議室。前にメラさんと一緒に皆さんで話した部屋だ。
黄の一族の所から帰るとすぐにメルバさんとフェラリーデさんに極力魔素を抑えてきてもらうようお願いした。
手の中の生き物が今にも消えそうだったので、急いでもらった。
そうして、締め切った部屋で手を開くとふわふわとしたホコリのような生き物が空中に舞うのをクルビスさん、フェラリーデさん、メルバさんに見てもらった。
メルバさんとフェラリーデさんには見えて、クルビスさんには見えないようだ。
「クルビス君には見えないんだよね~?」
「はい。」
「で、ディー君には見えてる~。」
「はい。本当に綿ボコリのようですね。」
やっぱり、見えるひとと見えないひとがいるみたいだ。
何か法則でもあるのかな。
綿ボコリのような生き物はふわふわと空中を漂っては魔素を抑えたひとに近づこうとする。
でも、近づこうとしては弾かれたように方向を変えて、また漂うということを繰り返していた。
(何だろう?何か違うのかな。今は皆さん魔素をほとんど抑え込んでいるのに。)
オルファさんに懐いていた様子を思い出してみる。
魔素は同じくらい抑え込んでるんだけど…あ。
(手が冷たくなってる。それもすごく。…魔素を持って行かれた?)
自分の手がとても冷たくなっているのに気づく。
最初捕まえてたときは冷たくなる感じはなかったし、感覚もしっかりしていた。
(いつから…オルファさんとメルバさんに見てもらう約束をして、それから…。)
順番に一つ一つ思い出していく。
そして、ラズベリーさんやグレゴリーさんが来てから手を意識してないことに気づいた。
(メルバさんとの確執の可能性とかに気づいたから、かな?動揺してたもんね。…もしかして。)
その時の自分の状態を思い出して、ある予測を立てる。
もしかしたらと思いながら、魔素を抑えたまま揺らした。
「っ。ハルカちゃん?」
「ハルカ?」
「ハルカさん?」
メルバさんたちが驚いて私を見る。
魔素を抑え込むのだって難しい作業なのに、それを揺らしたから何かあったのかと思われたみたいだ。
でも、説明は後。
今は…ほら、綿ボコリみたいな生き物がこっちに来た。
揺れている弱った魔素にこいつは食いついてくるんだ。
今も私の肩から魔素をほんの少し持っていった。肩が寒い。
予想的中だ。
たぶんだけど、これがホーソン病の原因だと思う。
メルバさんもそう思ったのか、お医者さんとしての厳しい顔をして肩の生き物を見ていた。
フェラリーデさんも厳しい顔をしている。クルビスさんは見えないから心配顔のままだ。
良かった。これなら、黄の一族に良い知らせを持って行けるかもしれない。
スタグノ族のお披露目の前には知らせておきたいしね。
ちなみに、本日は、黄の一族へは長へのご挨拶だけで、スタグノ族へのお披露目は後日になっている。
ルシェモモはシーリード族の街だと言うだけあって、スタグノ族の数は圧倒的に少ない。
しかも、商売で各地に散っているため集めるのに時間がかかるのだそうだ。
だから、まず各一族の長に挨拶をして、後でルシェモモに籍を置いているスタグノ族を集めてお披露目をするという流れになっている。
これは昨晩知ったことだ。
異例の短期間の婚礼準備だから、急に教えられることが結構多い。
まあでも、こうなったら泊りにならなくて良かったと思う。
こうしてすぐにメルバさんに見てもらえたんだから。




