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「いらっしゃいます。どうぞお入り下さい。」
「失礼します。っ。ハルカっ。」
わわっ。今自分の魔素を抑えてるからクルビスさんの魔素がキツイ。
思わず、身体がのけぞる。
それを見たクルビスさんが顔をしかめる。
あ。まずい。
「ハルカ?一体何事だ?その魔素はどうした?」
「待ってください。お願いですから、魔素を抑えて下さい。手の中の生き物が消えてしまう。」
クルビスさんの大きな魔素に手の中の生き物の魔素が掻き消えそうになる。
慌てて止めると、クルビスさんは私の手の形を見て魔素を抑えてくれた。
「…生き物?では、何もないんだな?」
「はい。この生き物を捕まえるために魔素を抑えただけです。あの。勝手なことしてごめんなさい。後で説明しますから、どうかご挨拶をして下さい。黄の一族の長様です。」
オルファさんを見ながら言うと、クルビスさんはハッとして居住まいを正した。
その後ろにラズベリーさんがいるのか、綺麗な尻尾が見える。
クルビスさんに案内させられたのかな?
怖かったよねえ。迷惑かけちゃったなあ。後で謝っておかないと。
クルビスさんって普段は抑えてるけど、魔素が大きいから普通にしてるだけで威圧感があるんだよね。
私がいなくなって普通の状態に戻したんだろう。
「失礼しました。突然お部屋にお邪魔して申し訳ありません。トカゲの一族の次代の長になりますクルビスです。」
「先の名乗りありがとうございます。黄の一族の長のオルファです。伴侶さまをしからないであげて下さい。私の声が聞こえたようなのです。」
「声…ですか。ハルカ?」
「あ。その。聞き間違いかと思ったんですけど、呼ばれてるような気がして。」
そうだ。それから嫌な感じが止まらなかった。
それでアングスさんの誘いに乗ったんだ。
じゃあ、あれはオルファさんの声でだったんだ。
でも、何で呼ばれたんだろう。
「私が寒さに震えているとき、穏やかな暖かい魔素を感じました。すると身体が暖かくなって、思わず『声』を使って助けを求めてしまったのです。」
「そうですか。伴侶には声を聞く能力があるようなので、その声をたどってしまったのでしょう。勝手なことをして申し訳ありません。」
クルビスさんが礼を取ったので、慌てて私も手はそのままで上体だけ傾けて謝罪する。
先に謝罪はしたけれど、こういう時は夫婦で一緒に謝るものだ。
オルファさんは大丈夫だと思うけど、グレゴリーさんやラズベリーさんはどう思ってるかなあ?
黄の一族と交渉決裂したらどうしよ。
手の中の生き物が何か手がかりになってくれるといいけど。




