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「えっと。だから、これなんですけど…。あの、失礼します。」
どうしても見えないみたいだから、少し近づいてホコリを取ろうとする。
すると、私が捕まえる前に不自然に方向を変えてホコリが舞った。
(えっ。逃げた?)
内心でギョッとしながらまた掴もうとすると、漂っていた方向とは別の方角に方向転換した。
とっさに「逃げた」と思ったけど、勘違いじゃなかったみたいだ。
(生き物だ…。逃がしちゃいけない。とにかく捕まえなくちゃ。)
それだけを思って捕まえようとする。
頭の中で警報が鳴ってる。「逃がすな」って。
「あの?」
「何がいるのでしょう?」
オルファさんとアングスさんが不安そうに私を見ていた。
あ。おふたりには見えないんだった。
いけない。これじゃあ、ただの変なひとだ。
でも、捕まえないと。
「えっと。ホコリだと思ってたものが何か生き物みたいで。とにかく捕まえてみます。…見えないんですよね?」
ホコリのような生き物から目を離さずに思ったことだけ伝える。
静かに深呼吸をして魔素を落ち着け、空気のようにゆっくり静かに手を伸ばしていく。
オルファさんとアングスさんの息を飲む気配を感じたけど、意識は漂うホコリに集中する。
そおっとそおっと。気づかれないように。
(今だっ。)
心の中で叫んで手の中にホコリを閉じ込める。
でも、手に触れる感触はまったくない。ホントにいるのかな?
(あ。何か動いた。)
魔素を意識していたからか、手の中にかすかに自分以外の魔素を感じた。
でも気配がすごく微弱だ。こんなに弱くちゃすぐに死んでしまいそうだ。
「…捕まえました。あの。本当に見えませんでしたか?」
「ええ。何もない空中を捕らえられたように見えました。」
「ハルカ様。いったい何がいたのでしょう?」
確認してみるけど、不安げな視線で否定されてしまう。
見えない奇妙な生き物…もしかして、これが原因とか?
(メルバさんに聞かなきゃわかんないなあ。下手なこと言えないし…。)
とにかく、見たことだけ伝えることにする。
ウソかどうか見ればわかるし、信じてもらえるだろう。
「白い綿ボコリのような塊がオルファさんにくっついては離れてを繰り返していたんです。最初はホコリだと思ってたんですけど、取ろうとすると逃げていくので生き物ではないかと思いました。何の生き物かわかりませんが、持ち帰って深緑の森の一族の長さまに見て頂こうと思います。」
「綿ボコリ…私には見えませんでした。」
「私もです。」
「もしかしたら特殊な生き物なのかもしれません。私は北の辺境の出身なので、皆さんとは身体の作りが違います。だから、見えたのかもしれません。」
「そうなのですか。では、何かわかったらお知らせ願えますか?」
「はい。必ずお知らせします。あ。でも、ご病気とは関係ないかもしれません。」
「ダメでもともとです。純粋な好奇心でもあるので、お気になさらないで下さい。」
「はい。」
カッカッカッカッカッ
話がまとまったところで忙しないノックが鳴り響く。
すごくイライラしてる鳴らし方だ。何だかクルビスさんっぽい気がする。
「どなたですか?」
オルファさんが問いかけると、ドアの向こうの気配が少し大人しくなる。
オルファさんの声って不思議だなあ。聞いてると気持ちが勝手に落ち着いてくる。
「トカゲの一族の次代の長クルビスです。そちらに私の伴侶がおりませんでしょうか?」
やっぱりクルビスさんだ。
私がもどらないから探しにきたんだな。
さあて。どうやって事情を説明しよう。
とりあえず、謝ろう。第一声は「ごめんなさい。」だ。




