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「よろしいんですか?お休みになってるんじゃあ。」
「いいえ。今は起きておられる時間です。どうかひと目会って下さいませ。」
「…わかりました。ご挨拶させていただきます。」
アングスさんの強い瞳を見て、黄の一族の長に会う決意を固める。
他所様のお宅でこんな勝手なことをして、後でクルビスさんに迷惑がかかるだろうなあ。
でも、黄の一族の長にはどうしても会っておきたい。
グレゴリーさんやラズベリーさんとお話ししてる時に聞こえた声、あれが黄の一族の長の声じゃないかって思ってるからだ。
間違ってたらかなり問題だけど、この予想はたぶん合ってると思う。
これは確信に近いものだ。
ルシン君の時といい、こっちに来てからこういう能力に目覚めたみたい。
それが私を後押しする。
「失礼いたします。お客様をお連れしました。」
「…ああ…ありがとう…。」
静かな声が部屋の奥から聞こえる。
部屋の中は明るいクリーム色と青色の内装で統一されていた。
家具は全部木製で部屋の奥に大きな天蓋のベッドが置かれている。
部屋の奥のベッドに濃い黄色の体色をした若者が横になっていた。
部屋の明かりを受けてキラキラしていて、明るい金色にも見える。
鮮やかな青の瞳は力強く輝いていて、とても病人には見えなかった。
このひとが黄の一族の長か。ずいぶん若いなあ。
とにかく挨拶しなきゃ。弱ってるひとに名乗らせてはいけない。
「初めまして。突然お邪魔して申し訳ありません。トカゲの一族の次代の長の伴侶となります。里見遥加と申します。どうぞ遥加とお呼び下さい。」
「先の名乗りありがとうございます。スタグノ族黄の一族の長オルファと申します。このようなお見苦しい姿で申し訳ありません。」
そういってオルファさんは身体を起こそうとする。
オルファさんが動くとふわふわした白い塊が空気中に飛ぶ。
ホコリかなあ?
病人に良くないのに。
でも窓が見当たらない。
空気の入れ替えが出来ないのかな?
そんなことを考えながらホコリを見てると、オルファさんが不思議そうに私を見ていた。
いけない。顔に出てたかな。
でも身体に悪いことは勧められない。
おせっかいだけど伝えておこう。
「あの。この部屋に窓はないんですか?その。空気を入れ替えた方が良いと思うのですが。」
「外の空気は暑すぎるので、我らの家は寝室に窓はつけません。ですが、お気遣いありがとうございます。」
暑すぎる…種族の特徴なのか。余計なこと言っちゃった。
勉強が足りてないのをこういう時に痛感する。
でもホコリが気になるんだよね。
あ。またオルファさんにくっついた。
「そうなんですか。不勉強ですみません。あの。でも、肩の所についたホコリは取られた方がよろしいと思います。」
「ホコリ?…どこかについていますか?」
「ついてないように見えますが。」
え。あんなに大きなホコリなのに。
ほら、アングスさんが触ろうとしたら浮かんで、今度はオルファさんの頭についた。
「あ。ほら。また浮いて、今度は頭の方に。」
「えっ。」
「どこですか?」
私が指摘した方をオルファさんとアングスさんが目で追うけど、ふたりの視線は全然違う方を向いている。
…もしかして、見えないんだろうか。




