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それからは、私たちもどら焼きをいただいて和やかに交流が進んだ。
グレゴリーさんも最初の不躾な視線はなりを潜め、新しいお菓子のレシピの公開に大いに賛同してくれた。
詳しく話を聞いてわかったのだけど、お菓子のレシピは調理師の技術で左右される部分が多いため、レシピが上手く伝わらずにそのまま消えてしまうお菓子もあるのだそうだ。
だから、私がレシピを広く一般に公開することで、様々な調理師さん達が切磋琢磨して新しい技術を習得する場になるだろうと言われた。
特に、私のレシピは辺境のものだから、誰かの技術や知識と被ることが無いので調理師さん達に受け入れられやすいとのこと。
過剰な期待は困るけど、こちらでレシピの一般公開がどれ程異質なのかはよくわかった。
今後は『既存のレシピと被らないように』というのにも気をつけないといけないだろう。
そして、レシピ公開に関心が高いのはラズベリーさんもで、グレゴリーさんと一緒に「レシピの公開方法が決まったら是非知らせて欲しい。」とかなり熱心に頼まれた。
スタグノ族の美食への探求心に押されつつ、本格的な公開が決まったら知らせる約束をして、当初の目的の1つである「今後も連絡を取り合う」という約束を取り付け、黄の一族が経営するお店を紹介してもらう。
キィさんからの忠告されたんだけど、黄の一族は宝飾関係にとても強く、式に使う飾りは必ず黄の一族が絡むことになるらしい。
そのため、私個人としても友好的に話を進めておく必要があるとのことだった。
お店の紹介までしてもらえたなら、最初としてはかなり高待遇になるはずだ。
思った以上に話が進んで、水菓子効果のすごさを改めて感じているとノックの音が響いた。
カッカッ
「失礼致します。お茶のおかわりをお持ちしました。」
入って来たのは濃い黄土色の男性だった。このひとはイモリっぽいなあ。
イモリだと思ったのは体格が小さかったから。
丸い頭に黒い真ん丸な目がきらきらしていて、何だか可愛らしい印象だ。
グレゴリーさんは体格が大きいからサンショウウオの印象が強くて対照的に感じる。
動きが優雅でとても訓練されているのが良くわかる。
豪華な内装といい、ここはホテルみたいだ。
「ほお。今度はビビ茶か。」
「はい。良い茶葉がつい先程手に入りましたので。」
グレゴリーさんと給仕の彼が言葉を交わす。
その時、給仕の彼が一瞬だけ私の方をちらりと見た。
あれ?何だか泣きそうな顔だ。
一瞬だけで、すぐ上品な笑みを浮かべて給仕に戻る。
何だろう。何だかすごく気になる。
顔に出しちゃまずそうだから、ビビ茶の香りに意識を傾けながら考える。
(…むい…)
ん?何か声が…。
でも、誰かに声をかけられた感じじゃない。
…何だろう。違和感というか、すごく嫌な感じがする。
目の前で和やかにお茶が淹れられてるのに、ちっとも楽しめない。
友好的にしに来たんだから、こんなことじゃいけないのに。
でも、気になるなあ。どうしようか。




