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「ハルカならそう言うと思った。でも、どの一族も女性に対する扱いは厳しいんだ。番でもないのに尻尾やそれに近い所に触れたいなんて言ったら、殺されても文句は言えない。だから、これは立派な我がままになるよ。」



「そうなんですか。」



 知らなかった。そんな常識があったなんて。まあでも、位置的にヒトでも触れないのが常識だよね。

 そういえば、何度か抱き上げられたときも、腰というより胃に近い部分と膝のところを持ってたっけ。



 あれって抱きつかないと体勢が保てなくて困るんだけど、尻尾にあたる場所を触っちゃいけなかったからなんだ。尻尾ってお尻の上だもんねえ。

 あれ?でも今はクルビスさんと婚約してるんだけど、それでもダメなの?



「でも、今は婚約者ですよ?」



「ホントは婚約期間中ほどダメなんだ。相手を大事にしてるのを周囲に認めてもらわないといけないから。付き合ってる時の方が個々の責任な分、まだ自由だな。」



 恋人の時は好きにいちゃつけるけど、婚約するとなったらダメなんだ。

 大事にするって態度から示さないといけないのかあ。結構、厳しい決まりだなあ。



 (でも、クルビスさんも律儀に守らなくてもいいのに。ふたりの時なんてわかんないでしょ?)



 そんなことを思っていると、クルビスさんが手を伸ばして私の頬を撫でてきた。



「大事にしたいんだ。それを皆に知らしめたい。ハルカが俺を想って世界に宣誓したみたいに、俺もハルカを想っているんだと。」



 低い声が耳に甘く響く。まるで耳から溶かされているみたいだ。

 そう認識した瞬間、身体に震えが走る。



 ゾクゾクゾクゥ



 こ、腰が抜けた。座ってて良かったあ。

 ―――じゃないっ。だから、いきなり魅惑のバリトンボイスで甘くささやかないで下さいってばっ。



 今、絶対顔が赤いと思う。嫌じゃないよ?嬉しいよ?嬉しいんだけど…。

 クルビスさんはますます目を細めて満足そうだ。くそう。ワザとだな。



 婚約中は相手に触れないってことになってて良かった。

 こんなの普段からやられたら、式の準備なんて出来やしない。



 式まであと1ヶ月程。それまでに少しは慣れますから。

 だから、唇を指でいじるのは勘弁っ。

 


 慌てるものの、上手く力が入らずワタワタする。

 クルビスさんはますます楽しそうだ。



 くうう。何か悔しい。

 えい。指、齧っちゃえ。かぷっ。



 あれ?クルビスさん固まっちゃった。

 痛かったかな?甘噛みなんだけど。



 「…やられた。」



 そうつぶやいて、クルビスさんの指が唇から離れていく。

 なんだか知らないうちに勝ったみたい。やった。

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