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「ハルカ様。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。リリィさんこそ、たくさん勧められてましたけど、大丈夫ですか?」
「ええ。まあ。なんとか。アニスにお礼を言わないと。」
「あ。消化剤、調合したのアニスさんなんですか。」
「ええ。私がいつも大変だってシードに聞いたらしくて…。ホントに気のつく子だわ。」
ただいま、会場の端っこでリリィさんと避難中。
次から次に来る料理にさすがに顔がゆがみそうになって、慌ててトイレ休憩と称して逃げてきた。
そしたら同じ場所にリリィさんがいて、ふたりで追加の消化剤を飲んで休憩している。
おどろいたことに、アニスさんの調合した消化剤は3段階だった。
1番目は最初の方で飲む。2番目はお腹が一杯になったら飲む。そして、3番目は戻しそうになる直前くらいに飲むらしい。
延々と食べること前提に作られた超強力消化剤。すごいもの作ったね。アニスさん。
「何だか、お腹の圧迫感が減ったような…。」
「あら。私も…。」
10分程休憩してると、お腹が苦しいのがマシになった。
…早っ。効果早っ。消化剤ってこんなに早く効くもんだっけ?
リリィさんも目を丸くしてるし、一般的な効能じゃなさそう。
アニスさんホントすごいもの作ったなあ。
これならもう少ししたら会場に戻れそうだ。
…ん?誰か来る?足音が…て、マズいっ。
こんな隅っこで避難してたのがバレたら恥ずかしいっ。
リリィさんもそう思ったみたいで、二人でそろっと音をたてないように移動した。
「ふふふっ。いい気味だな。これでイグアナやカメレオンのやつらは手出しできまい。」
「ええ。お相手が黒の単色では、向こう様も相手を紹介することも出来ませんでしたしねえ。ルシェリードさま直々に見つけられた伴侶殿です。誰も文句をつけないでしょう。」
「ああ。北の辺境だ。誰にも見つけられないはずだ。ようやく見つかったな。」
「ええ。おめでたいことです。これで、クルビス様の暴走も防げる…。」
「しっ。滅多なことを言うな。あの方はルシェリード様のお血筋だぞっ。」
「ええ。ですが…。」
そこで声は遠ざかって行った。
何だったんだろう。カメレオンにイグアナって言ってた?
たしか、どちらもシーリード族に入ったのが一番遅かった一族だ。
そのせいで、何かと立場が弱いって聞いたけど…何かあったのかな。
「完全に行きましたね。これくらい離れれば大丈夫です。」
「そうですか。もう会場に戻りましょうか。」
「そうですね。ハルカ様。今のこと、後でクルビス隊長にお伝えください。他の方にはおっしゃいませんように。」
リリィさんの忠告に頷いて、音をたてないように移動する。
それにしても、さっきの話。あれがクルビスさんの暴走を心配する声かあ。
クルビスさん、あんなのを子供の頃から聞いてたのかな。
嫌われるのとは違うけど、腫物を扱うようっていうか、怖がってるっていうか…。
力の強い個体には仕方ないものらしいけど、向けられていい気分はしない。
決めた。今日はクルビスさんを甘やかそう。そうしよう。
周りのひと達がああいう態度取るんなら、その分私が大事にする。
それで丁度いい。




