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「料理を取り行こうぜ。」
目の前に広がる宴会に呆気にとられていると、シードさんとリリィさんが誘いに来てくれた。
良かった。昨日とも違う様子だし、屋台は見えるけどどうしたらいいのかわからなかったから。
「ああ。行こうか。ハルカ。」
「はい。」
クルビスさんとジョッキとお皿を小さなトレーに乗せて移動する。
ジョッキもお皿も宴会の間中、各自で持って移動するものだそうだ。
料理が山盛りになる「通常の宴会」は、小皿もたくさん用意されるからお皿は必要ない。
でも、今回は「ヘビの一族の宴会」という数十年に一度あるかないかくらいの大宴会だ。
料理も用意するのに限界がある上に痛むので、屋台で出来たてをもらって食べることになっている。
費用はすべて主催者持ち。お皿の用意もそうだ。
当然、医療以外で使い捨てという概念の無いこの世界で、お皿の数は足りなくなる。
そこで、大きな宴会では各自にジョッキと取り皿が支給され、トレーに乗せて料理や飲み物を受け取ったら、好きな場所で座って食べていいことになっている。
今回の主賓である私たちはそうはいかないけどね。
真ん中の上座、つまり、皆さんから良く見える位置にいないといけない。
ま、それはともかくとして、ごっはん、ごっはん。
これだけ宴会モードなら、気楽に料理を楽しんでもいいだろう。
クルビスさんもくつろいだ感じだし、この前みたいに気を付けないといけないお客様もいなさそうだ。
シードさんやリリィさんもいるし、わからないことは素直に聞こう。
「いらっしゃいっ。さあさあ、次代様っ。うちのポレンは西一番だよっ。伴侶さまもっ。」
「うちのギーナも食べて下さいな。甘くておいしいよ。」
屋台に近づくと、端から声がかかってお皿に次々と料理が乗せられていく。
そう、どんどんどんどん…もう顔の高さまで来てる。これ、全部食べるの?
「おー。すげえ人気だな。崩れる前にそこで食おうぜ。皆、主役そっちのけで騒いでるし、ちょっと戻るのが遅れてもいけんだろ。」
「これは…すごいわね。私とシードの式の時もすごかったけど…。」
「そりゃな。トカゲの一族は西にも多いし、お披露目も見れたのは北に住んでるやつらか、強い個体や役職持ちくらいだろ?この機会に祝いたいってのはあるんじゃねーの?」
シードさんとリリィさんの会話を聞きながら、この間のトカゲの一族のお披露目を思い出す。
確かに色の濃いひとが多かった。後、どこかの工房の親方とか商会のお偉いさんとか肩書き持ったひとも多かったなあ。
シーリード族は実力主義だから、上の者が認めれば下についたもの達も追従するので、一族の総意に影響のあるひとだけ呼ばれたと聞いている。
北地区のひとは家族も連れて来てたみたいだけど、一族全員って言っても数が多いし、街じゅうから集めるのは実質無理だ。
だから、式は街をあげての祝いになるんだと言われた。
それなら、皆でお祝い出来るから。
屋台を見直すと、トカゲの一族のひと達も多かった。
さっき、声かけてくれたおじさんやおばさんもトカゲの一族だ。
この山盛りの料理は彼らのお祝いの気持ちだ。
ありがたくいただこう。




