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「豆を炒めるんっすか。初めて聞いたッす。」
「『炒める』じゃなくて『炒る』ですよ。ベルさん。炒めるだと油を使ってしまう場合があるので。」
「ああ。油は使わないんっすね。成る程。」
私がいろんな豆をフライパンで炒っているのを、頭が黄色くそれ以外が黄緑の体色をしたヘビの男性が、興味深そうに覗き込んで熱心にメモを取っている。
覗き込んでいるのは北の守備隊の調理師のベルティさんだ。
守備隊の皆さんにはベルって呼ばれている。
語尾に独特のクセがあるひとだ。
何故ルドさんじゃないのかというと、ルドさんに厨房を借りようと食堂のカウンターに行くと、その場にいた調理師さん達から参加したいと申し込みが殺到したからだ。
どうやらトカゲの一族のお披露目の時に「レシピを公表する」と公にしたことを聞きつけたらしい。
情報が早くて驚いた。まだ数日しかたってないのに。
まあ、ここにはルドさんがいるから、彼から聞いたのかもしれないけど。
今日は式の準備は午前中で手配を終えて、昼から時間が取れて水菓子作りときな粉用の豆探しを行う予定だったので、ルドさん以外のひとを見学に呼ぶことにした。
時間が取れたのは、式の準備もドレスの採寸に生地選びくらいで、今はまだやることがあまりないからだ。
だから、ルドさんは時間がある今の内に考えた方がいいと勧めてくれていたし、私も注目をお集めてるならと、きな粉作りを本格化させることにした。
メルバさんから水菓子に関する問い合わせが殺到しているとも聞いたし、頑張らないといけない。
私が思った以上に新しいスイーツへの関心が高まっているようだ。
まあそんなこともあって、見学の申し込みがものすごかったんだけど、調理師さん全員一度には無理なので、じゃんけんをしてもらうことになった。
それで選ばれたのはベルさんとサーモンピンクの身体に足首から先が青い体色のトカゲの男性バウルさん。
このふたりは職場が同じだからか、連携を取るのがとても上手い。
今も、ベルさんがレシピを記入する傍ら、バウルさんは炒った豆を種類ごとに分けながらバットに広げて冷ましているといった感じだ。
先に水菓子を作るときも、ひとりが餡子を丸めたらひとりがゼリーで包んでいくといった感じで、手順を理解するとあっという間に必要数が出来上がってしまった。プロすごい。
ふたりにも香ばしくなる豆について知らないかと尋ねてみたけど、心当たりがないと言われた。
ただ、私がきな粉の特徴を話し、いろいろな豆を炒ってみるつもりだと伝えたら、熱を加えると味の変わる豆を10種類ほど用意してくれた。
用意してもらった豆の名前をメモして、早速炒り始めて現在の状況になっている。
少しずつ豆の香りが漂ってきた。後は焦がさないよう気を付けるだけだ。
「いい匂いっすね。でもやっぱり硬そうに見えるッす。」
ベルさんはバウルさんが広げた豆を見て感想をつぶやいた。
たしかに、乾燥した豆を炒っただけじゃあ、硬そうにしか思えない。
この中から食べられるものがあればいいんだけど。
私は不安になりながら焦げないように手元を動かし続けた。




