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「う~ん。そんな豆、こっちにあったかなあ~。」
メルバさんが難しい顔をして考え込む。
といっても、私とクルビスさんの式に影響するような内容ではない。
私が「「大豆」か「きな粉」を作れる豆はありますか?」と質問したからだ。
目的はもちろん「きな粉」を作ること。
きっかけは、葛餅、もとい「水菓子」を披露したときに、トカゲの一族に水菓子のウケがすごく良かったので、各一族の長に挨拶に行くときは水菓子持参で行くことに決まった時。
「蜜はかけないのか?」といった質問が多かったので、他でも同じ質問をされるだろうから何か考えた方がいいとルドさんにアドバイスされた。
式には関係なくても、「無料公開のスイーツレシピ」はルシェモモで話題の的になっているそうで、無名の私が伝手を広げるにはいい方法になるだろうとのこと。
それで、まずは単純に「黒蜜」に「きな粉」かなと思って、それにあたる食材を探し始めた。
でも、「黒蜜」にあたる蜜はすでにお店で使われていたから「きな粉」についてルドさんに聞いたんだけど、「心当たりがない」と言われた。
そもそも、私の言うきな粉をルドさんは知らないから、似た食材なんてわからない。
だから、おやつを差し入れついでに、あー兄ちゃんの料理をいろいろ食べたことのあるメルバさんに話を聞きに行くことにした。
そしたら、難しい顔をして考え込まれてしまった。
きな粉は知っているみたいだけど、似た味になるものは知らないみたいだ。
「こちらでは豆を炒ったりしないんですか?」
「そうだねえ~。乾燥させると魔素が飛びやすいからね~。」
「やっぱり魔素が飛ぶんですねえ。最初から乾燥ぎみなら大丈夫かなって思ったんですけど。」
メルバさんの答えに納得がいく。
こちらでは魔素の補給が第一。でも、魔素は加工すればするほど飛んでいくものらしい。
ただ、加工技術が全く無いわけではない。
エルフたち深緑の森の一族が持ち込んだ技術で、特定の果物や海産物を定められた手順でなら、魔素を多量に含んだまま乾物に出来るようになった。
生には無い味もあって保存も効くので、この技術を学ぶために各地から修行にくるそうだ。
ただ、加工できる食材に限りがある上、魔素の量は多少なりとも減ってしまうので食材加工は盛んではない。
だから、食材は新鮮なものをその日の内に使い切るというのが常識だ。
食材が新鮮なのはありがたいことだけど、それのおかげでこんな基本的な部分で躓くことになるなんて。
餡を作った時に見た豆類は乾燥していたから、加工できるのだと思っていた。
でも、とんだ勘違いだった。こちらの豆は採れるときに水分が少ないため、もともと日持ちするものなんだそうだ。
それを聞いて最初はがっかりした。
炒ることが出来なければきな粉のあの香ばしい香りにはならないからだ。
でも、メルバさんの話を聞くうちに、「もともと水分が少ないなら炒っても魔素が飛びにくいんじゃないか?」と考えてみたんだけど…。
「う~ん。豆に寄るかもねえ~。煮るだけで味がずいぶん変わるものもあるし、水分なしで炒ったら似たものがあるかもしれないねえ~。」
「手当たり次第やってみるしかなさそうですね。」
ため息が出る。豆の種類は数百種もあるからだ。
きな粉にたどり着くまで前途多難の予感がヒシヒシとする。




