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「いいや。ハルカが考えてるようなことにはなってないよ。彼は今でも元気に守備隊で仕事をしてる。もともと体術や書類仕事などの魔素が関係ない部分での評価が高かったから、この件をきっかけに中央本隊に引き抜かれたくらいだ。」
クルビスさんが私の怖い想像に気付いて否定してくれる。
良かった。でも、その話だとクルビスさんを嫌う理由がわからない。
私の疑問に答えるようにクルビスさんが説明を続ける。
「それで、彼女が俺を嫌ってる原因だが、簡単に言うと俺がコールの伴侶を治療したからだな。コールは俺が治療をしくじったと思っていた。いや。今でも思ってるだろう。」
「そんなっ。」
「言い訳みたいになるが、俺はあの時やれる精一杯の治療をやったつもりだ。彼のケガは1番酷くて、危険な状態だった。治療術士の到着も待てないほどに。なんとかズタズタだった腕も再生させて、身体の方は治療出来たよ。コールの伴侶も心から礼をいってくれたし、彼女も最初は感謝してくれた。
でも、しばらくしてから会ったら、魔素が使えなくなったのは俺のせいだと、わざとだろうと言われるようになっていて…。この事故が原因でコールの伴侶は中央に行くことになり、俺が北の隊長になったのも関係あるだろうな。
コールの伴侶はそんなことはないと言って彼女を止めてくれたが、彼女が落ち着くことはなかった。それから今日まで会わずじまいだ。まあ、向こうから挨拶にきたし、俺が次の家長になることは承認したみたいだな。」
そこでクルビスさんの話は途切れた。
いつの間にか詰めていた息をゆっくりと吐く。覚悟した通り、重い話だった。
亡くなったわけじゃないけど、ケガを治しても後遺症が残ったんじゃ、いや、残ったからこそ遺恨も残ったんだろう。
それも後遺症が魔素が扱えないという重症だったからだ。
話を聞いた限り、私はクルビスさんのせいだとは思わないけど、こちらの世界の常識として、治療で何かあったときは治療した者の責任になるとアニスさんが教えてくれた。
クルビスさんが言うように、後で隊長になったことも絡んで、犯人への恨みとは別に治療したクルビスさんへも恨みが残ってしまったんだろう。
だからってクルビスさんが恨まれるのは納得出来ないけど、後遺症のこともあるし、部外者の私がこの件に関してどうこう言えるものじゃないとも思う。
事件に関しては事実として受け止めるだけにした方が良さそうだ。
「そういうことだったんですね…。話してくれてありがとうございます。」
「彼女はハルカまで嫌ってるわけじゃない。一族の中でも権限のある女性だし、俺のことは気にせず仲良くしてくれ。彼女は気立ての良い女性だよ。」
「…はい。またお話ししてみます。」
コールさんの顔が思い浮かぶ。
挨拶の時、私には好意的で祝福の明るい感じが伝わってきた。
魔素を隠すそぶりもなく、喜びであふれていた。
クルビスさんのことを抜きにすれば、彼女とはそれなりに上手くやっていけそうな気がする。
いや、やっていかないといけないだろう。一族のまとめ役の伴侶とはそういう立場だ。
一族の中で権限があるひとみたいだし、コールさんもそこは理解しているだろう。
挨拶の感じからすると、外からやってきた私は無関係だと割り切っているのかもしれないけど。
まあ、何にしても、私に名乗って挨拶してきたくらいだから、私とは交流を持つつもりがあるようだ。
それなら極力クルビスさんとの接触は控えて、私が彼女の対応をすればいい。
うん。とりあえず、コールさんについてはこれでいいだろう。
さて、後は…やっぱガルンパさんのことかな。




