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その後も挨拶がひっきりなしにくるので動けずにいると、ウジャータさんが様子を見に来てくれた。
助かった~。ありがとうございます。ウジャータさん。
「あらあら。こんなところにいらしたの?さあさあ、皆さん、こちらにいらして?そろそろ始めたいと思いますから。」
彼女の言葉で周りにいたひと達が一斉に散って行った。お見事です。
ウジャータさんに案内されるままに会場の真ん中の方に進んでいくと、幾つかのおおきなテーブルがあって、その上にたくさんの料理が並んでいた。
立食形式みたいだ。美味しそうな…というか、えーと、目に痛そうな色の料理が並んでいる。
緑のソースと赤い具材とか、紫のケーキの黄色いクリームだとか、地球でいうところの何だか食べたらあたりそうな色の品々が並んでいた。
今までルドさんの料理を見てきたけど、カラフルといってもここまでの毒々しさはなかった。
どうしてこんなに違いがあるんだろうと隅っこの方のテーブルを見ると、そっちは見慣れた色合いの料理が並んでいた。その隣のテーブルに並んでるのはオレンジの強い色味の料理が多かった。
どうもテーブルごとに料理の特徴が違うみたい。これも趣向かな?
そんなことを思いながら示された場所で止まると、アルフレッドさんが前に進み出てきた。
「皆揃ったな。古式にのっとり、まずは次代殿に伴侶が見つかったことを祝おう。この幸運に祝福をっ。」
「「「祝福をっ。」」」
祝福の言葉を受けてクルビスさんと一緒に礼を取る。
これは「相性の良い相手が見つかって良かったね」という意味だ。
昔は魔素の合う相手を見付けるのが難しくて、見つかるとまずお祝いするものだったらしく、これはその名残だそうだ。
後はクルビスさんが私の紹介をして私が名乗りをする。何事も無ければお披露目成功だ。
「さあ。名乗りを。」
アルフレッドさんに促されて、クルビスさんと一歩前に出る。
数百という視線に刺されて足が震える。エルフの里の時とは違う。品定めするような視線だ。
でも、ここが肝心。踏ん張らなきゃ。
クルビスさんの隣に立つって決めたんだから。
「トカゲの一族、次代の家長クルビスだ。このたび伴侶を得ることとなった。俺と同じ黒の単色で後見はルシェリード様だ。皆、よろしく頼む。」
ルシェリードさんの名前が出たところで周囲からの視線が私ひとりに集まる。
ううっ。胃に穴が開きそう…。
さらに緊張が増してきたけど、クルビスさんがギュッと手を握ってくれたのでちょっと落ち着いた。
深呼吸。深呼吸。よし、大丈夫。
「里見遥加と申します。どうぞ遥加と呼んで下さい。北の辺境で育ちましたので、わからないことがまだたくさんありますが、努力して学んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。」
胸に手を当て、上体を傾けてゆっくりと礼をする。出来る限り丁寧にするのが大事だ。
これから一生お付き合いのあるひと達だ。誠心誠意、頭を下げる。
種族は言うわけにいかないから、北の辺境出身だということをアピールして有耶無耶にした。
これは婚約が決まってすぐに、ルシェリードさんとメルバさんと相談して決めておいたことだ。
ヒト族の蛮行はエルフから他の一族に伝わってしまっていて、このまま種族名を名乗っても誤解を招く恐れがあり、それなら名乗らない方が良いだろうと言うことになった。
だから、北の辺境出身といことを全面に出して「他の種族がいなかったから自分の種族というものを考えたことがない」ということで今後も突き通すつもりだ。
苦しい言い訳だけど、知らなければ他に聞きようもないし、病気で私だけ生き残ったことになってるから、これ以上は突っ込まれないだろうというわけだ。
「見事な名乗り、確かに受け取った。皆も聞いたな?これより採決を取る。異論のある者はあるか?」
私を認める気がないなら声に出して反対する。無ければ沈黙だ。
そして反対の声は――無かった。
「無いようだ。これにてサトミハルカを我が一族に迎え入れることとする。新しき番に祝福をっ。」
「「「祝福をっ。」」」
ここでもう一度祝福される。これでお披露目の儀礼的な部分は終わりだ。
後は食事を取りながら個々に交流を深めていく。
こっちの方が大変そうだけど、ここでお菓子をお披露目することになっているから、気が抜けない。
さっきの女性みたいなタイプが絡んで来るかもしれないし、油断大敵だ。




