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「おめでとうございますっ。」
「ありがとうございます。」
次々に投げかかられる祝いの言葉ににこやかに返事をしていく。
余りにも出席者の数が多いのでガーデンパーティーになったんだけど、建物から出たとたんに囲まれて身動きがとれない。
「素敵な黒だわ。」
「本当に。まるで夜のよう。」
さっきからこればっかり。珍獣扱い再び。
クルビスさんは慣れてるから涼しい顔だ。私も慣れないとなあ。
ちなみに、今日の髪型はサイドだけピンで留めて残りは背中に降ろしている。
色が良く見えるようにそうしたんだけど、予想以上に食いつかれた。
黒髪への反応はエルフの里よりひどいかも。
まあ、エルフは知能優先だから、身体能力や魔素が高いことにそれほど重きを置いてないってメルバさん言ってたもんなあ。
逆に、尻尾と鱗のある爬虫類系種族のシーリード族は身体能力を重視するから、能力の高い「単色」であることは重要なんだろう。
別に両親が単色だからって、子供も単色になるわけじゃないんだけどなあ。ルドさんやビアンカさんが良い例だ。
バチッ
え。なんの音?足元からしたけど、周りにたくさんいるから下が見れない。
んん?この足に巻きつく感じは…クルビスさんの尻尾だ。その音だったのかな。
尻尾がある種族は大勢が集まるときには自分の側に尻尾を寄せておくのがマナーだって言ってたもんね。
さっきの音は誰かの尻尾とかすったのかもしれない。そういうのは気付かないふりをするものだそうだ。
「クルビスさま。この度はおめでとうございます。」
声がしたと思ったら、いつの間にか私の横にオレンジのドレスの女性が立っていた。
彼女が礼を取ると、腕にじゃらじゃらつけたアクセサリーが鳴る。足にもつけてるみたいだ。インドっぽい。
白っぽい地色にヒョウのような黒い斑点が全身にあって、ちょっと驚いた。
目は黒だけど笑ってないのがわかる。これは要注意なタイプだ。
「ああ。リリアナか。ありがとう。ハルカ。彼女は東の守備隊の戦士部隊副隊長だ。東で一番の強者だぞ。」
「まあ。ひどい紹介の仕方。可憐な伴侶さまに怖がられてしまいますわ。
初めまして伴侶さま。ご紹介いただきました通り東で副隊長の職に就かせて頂いております。ご婚約おめでとうございます。」
微笑みながら受け答えしてるけど、私を見る目が怖い。
嘲笑ってるっていうのかなあ。彼女が言うと「伴侶さま」呼びも嫌味な感じだ。
「可憐な」に力いれてたし。
「弱そうな」って聞こえたけど、気のせいじゃないだろう。
それに、名前を名乗らなかった。
私の名乗りは後にやるってわかってるから、好意的なら先に名乗ってくるものだ。
つまり、仲良くする気はありませんよ。ということだ。
あからさまだなあ。視線に嫉妬が混じることはあったけど、ここまでハッキリ態度で示すひとは初めてかも。
「ありがとうございます。副隊長さんなんですね。かっこいいですねえ。」
相手にするつもりはないから、当たり障りのない返事をしておく。
念のため足は左にいるクルビスさんに寄せておいた。
私の返事に目を細めて一礼すると、ヒョウ柄の副隊長さんはジャッジャッと音を鳴らして去って行く。
最後に熱ーい視線をクルビスさんに投げかけたのは見逃さない。
周りに余裕が出来たのでそっと足元を見ると、芝生が少し削れていた。
土がかかった気がしたんだけど、気のせいじゃなかったみたい。
たぶんさっきの彼女の尻尾の仕業だと見当がつく。
この分だと、クルビスさんの尻尾にかすったのも彼女の仕業かもしれない。
(うわ~。足避けといて良かった~。クルビスさんもこれがわかってて尻尾をからめてくれたのかな?)
軽くでこの威力じゃあ、転ぶどころか足にひびが入りそうだ。
始まってもいないのに、もうこれか。先が思いやられるなあ。




