雨季ー38
「すみません。遅れましたか。」
ちょっと高い声が聞こえて階段の方を見ると、茶色の単色の隊士さんが降りてくる所だった。
頭の形からしてトカゲの一族のひとだとわかるけど、それにしては小柄なひとだ。
どちらかというと細身でヘビの一族に似通っている。
でも、安定した穏やかな魔素が、生きてきた年月を感じさせた。
あんな隊士さんいたっけ?
たくさんの隊士さんがいるから、全員を知ってるわけじゃないけれど、それにしては見たことないひとだ。
「大丈夫だよ。キジカ。私もさっき降りてきたところだ。」
「ああ。遅れてはいない。」
茶色のトカゲさんは、ガソンさんとクルビスさんの返事にホッとした様子を見せ、私を見ると胸に手を当てて礼をしてくれる。
礼を返すと、クルビスさんに背中を押されて前に出される。
「まだちゃんと紹介してなかったな。伴侶のハルカだ。」
「お初にお目にかかります。トカゲの一族、キジカと申します。任務で街を離れていたため、ご挨拶が遅れてしまいました。申し訳ありません。」
ああ。お仕事でいらっしゃらなかったんだ。
それなら見かけなかったのもわかる。
仕方ないことだし、そんな申し訳なさそうにしなくても。
真面目な方なんだなあ。
「とんでもない。お仕事お疲れ様です。初めまして。里見遥加です。どうぞ遥加と呼んで下さい。」
丁寧に礼を返すと、何故か少し驚きを感じる魔素を感じ取る。
私、何かやっちゃった?
「クルビスさま。良き伴侶様ですね。」
「ああ。自慢の伴侶だ。」
さりげなくのろけないで下さい。恥ずかしい。
結局、何に驚かれたのかはわからないまま挨拶は終わり、ガソンさんと同じ注意事項を聞いた後、ふたりは牢の見張り番に向かった。
ただの見張り役とは違う、とても大変な任務だ。
でも、ガソンさんもキジカさんも気負う様子もなく、穏やかなままだった。
あれが経験豊富な隊士さんの余裕なのかな?
他に適任者がいないってことだったけど、おふたりは魔素も大きかったし安定感があったから、ちょっとやそっとのことじゃ揺らがないだろう。
後は、西に向かったっていうシードさんがどうなったかだ。
相手の模様のこともすぐに伝えたそうだけど、隊長さんクラスでないと対抗できなかったっていうのに、大丈夫なんだろうか。
クルビスさん達もそれが気がかりなのか、通信機の方をちらちらと見ては今後の打ち合わせをしている。
祈るしか出来ないけれど、どうか無事に戻ってきますように。




