雨季ー36
その後、フェラリーデさんは治療部隊の解散を命じて、私たちと同じテーブルについた。
随分疲れていたようで、ルドさんの差し出した汁粉をあっという間に平らげた。
「ふう。これはホントに良いですね。地下で冷えた身体によく利きます。」
「お疲れ。地下の職員の容体は?」
「すみません。こちらも先に報告すべきでしたね。ええ。幾つか切られたものがいましたが、治療出来ました。数日で復帰出来ますよ。」
フェラリーデさんが恥ずかしげに地下での様子を教えてくれる。
麗しい美形がそういう顔をすると、こっちが悪いこと聞いた気になってくる。
「いいや。移動した途端襲われて、その後も隊の指揮をとって治療し続けていたんだろう?疲れて当然だ。」
「いえ。それもありますが、何というか、捕まえた者たちをとにかく牢に入れなくてはと、そればかりが気になってしまって。キィが連れて行ってくれてホッとしてしまいました。情けない話です。」
あの狂信者たち?
そういえば、捕まえた割にはキィさんもフェラリーデさんも表情が硬かったっけ。
「…催淫か?」
「そうです。詳しくはキィから聞いて下さい。ただ、いくつかの隊士や職員に混乱の症状が出ました。」
フェラリーデさんの返事にクルビスさんが表情を硬くする。
よくはわからないけど、どうやら術にかかったひとがいたみたい。
原因はさっきキィさんが言ってた魔素を使わないってやつ?
だとしたら、フェラリーデさんとキィさんの厳しい表情にも納得だ。
ここには一般のひとも子供たちもいるんだから、何かあってからでは遅いもんね。
隊士さんにも影響が出るってことは、近づけるひとは最小限にした方いいんだろうな。
「そうか。それなら、選抜する隊士は経験の多いものからにしよう。」
「そうですね。お願いします。単色の方の方が良いかもしれません。やつらの魔素も妙に絡みついてくるので、それを振り払えるくらいの。」
絡みつく魔素かあ。私が感じたのと同じだ。
フェラリーデさんが遮ってくれなかったら、クルビスさんの後ろに隠れてたかもしれない。
フェラリーデさんとクルビスさんが報告と打ち合わせをしていると、キィさんが戻ってきた。
苦々しい顔をしている。
「一応、術式封じやって、遮断の強力なので覆っといたけどな。中の連中と接触する時には1つじゃやばいだろうなあ。」
「それほどなのか?」
「ああ。あいつら、全身に模様に模して『催眠』の術式を掘り込んでやがる。見てるだけで、術にかかるとっかかりになるってやっかいなもんだ。」
掘り込んでって…。刺青ってこと?
えええ。自分の全身に術式を掘り込むって、それはちょっと。
引くわー。いや、ホント。ドン引きですよ。
クルビスさんも想像したのか、顔をしかめていた。




