雨季ー33
何とかクルビスさんを宥めて、何でもないことを伝える。
もう、抱きついて、懐きまくって、ようやく魔素を納めてくれたのだけど、今度は私が恥ずかしくって周りを見れなくなってしまった。
いくら新婚と言っても、人前でのいちゃいちゃはまだまだ抵抗があるからしょうがない。
クルビスさん。嬉しそうな顔しないで下さい。
「たまにはいいな。」
良くない。
ぜんっぜん良くない。
いちゃいちゃのために威圧をわざとやったりしたら、膝から降ります。
決意を込めて見上げると、さすがにクルビスさんも押し黙った。
「らぶらぶー。」
「ぎゅってしてるー。」
ん?どこからか可愛い声が聞こえる。
何だかどこかで聞いたようなセリフだ。
クルビスさんが私ごと振り返ると、スカイブルーとピンクの体色のトカゲの一族の女の子が立っていた。
あの子たちはたしか…。
「ベッカにフルール。君たちもここに?」
そうそう。ベッカちゃんとフルールちゃん。
ビドーさんのお嬢さんだ。
今日もお揃いのワンピースを着ている。
可愛いなあ。
「そうー。」
「おじいちゃんの家にいたのー。」
「そしたら、どしーんって。」
「お家が揺れたのー。」
ふたりが交互に説明してくれた所によると、雨季は毎年ビドーさんの実家に預けられているそうだ。
そのお家が川に近い場所にあって、今回のヒビの被害を受けてこっちに移動してきたらしい。
お父さんやお母さんと離れて暮らすなんて驚いたけど、ふたりとも特に寂しそうには見えない。
お父さんもお母さんも普段から忙しくしてるからかなあ?
落ち着いてるし、しっかりしてるよねえ。
でも雨季ならお仕事お休みなんじゃあ?
不思議そうな私の様子を見て、クルビスさんが二人の話に補足してくれた。
それによると、雨季は家に閉じこもる分、帰って悪い事態になることがあるそうだ。
お年寄りが具合を悪くしてたり、泥棒や強盗に狙われてケガをしていたり。
昔は雨季の間に具合を悪くして消えてしまったひともいたらしく、今では地域のひと達で連携して順番に家々を回って確認を行っているそうだ。
奥さんのメロウさんは、具合の悪いお年寄りや手伝ってくれる街の皆さんに食事の提供を行っていて、夫婦共に雨季は忙しいらしい。
守備隊の隊士たちでは手が回りきらない部分なので、とても助かっているとクルビスさんが言っていた。
この雨の中を外に出るのかあ。ご苦労様です。
でも、地域で協力するのって大事だよね。特にお年寄りの多い地区だと助かることも多いだろう。
「じゃあ、しばらくここにいるのね?」
「そうー。」
「お家が治ったら戻るってー。」
そっか。しばらくいるなら、西から来た子たちと仲良くなってくれるといいな。
遊び相手がいた方がこの子たちも楽しいだろう。




