雨季ー30
それからしばらく、中央や他の地区と連絡を取りつつ、地下調査隊の帰還を待った。
地上も丁寧に調べた結果、ヒビがあちこちで見つかり、規模の小さいものなら北地区でもまだ数か所あったらしい。
この成果は、私の言った陽動という言葉に引っかかったらしいキィさんが「まだあるかもしれねえな。」と言って、街の巡回の強化を提案したからだ。
隊士さん達が交代で出ていく中、私はクルビスさんのひざから降りて、お汁粉作りに精を出した。
これには、クルビスさんもしぶしぶ頷いてくれた。
だって、叩きつけるような雨の中を走り回ってくるんだよ?魔素の補給は必須だ。
「ハルカの作る汁粉が一番魔素の補給に良いようだ。」
私の作った汁粉を見て、ルドさんがポツリとつぶやく。
今は、汁粉作りは休憩中で、私はまたクルビスさんのひざの上。
「…そうだな。ハルカの作るものはちょうど良い。」
外に出てないのに、なぜか私の作った汁粉を食べながらクルビスさんがつぶやく。
食べるなら降りるって言ったのに、普通に食事始められちゃうし。困った旦那様だ。
それにしても、私のがちょうど良いってどういうことだろう?
汁粉なんて、豆以外はお砂糖とお塩だけだし、誰が作ってもそれなりに食べられるはずだけど。
「補給する魔素は多すぎても少なすぎてもだめだからな。隊の補給はどうしても魔素を大目になるよう用意するが、その加減が難しいんだ。」
つまり、私のお汁粉は魔素の補給に丁度いい量のお砂糖が入ってるってこと?
それならわかるかなあ。調理師さん達に教える時にお砂糖を入れ過ぎないよう、何度か注意しないといけなかったし。
「俺たちが作ると、どうしても多くの魔素を含ませたくなるからな。本能的なものだと言われてるが。」
ルドさんがため息をついて教えてくれる。
本能かあ。魔素が無くなると消えちゃう世界ではそうなっても仕方ないかも。
私にとって、食事は未だに魔素の補給というより娯楽に近いものだ。
栄養は必要だけど、楽しみが無いといけないと思ってる。
だから、何でも「程よく」を心がけていて、味付けも過剰にならないようにしている。控えめ第一。
関西に住んでた祖母の影響もあるかもしれない。濃い味も好きだけど、薄味も良いよね。
「魔素が多すぎないから、隊士たちも自分に合った量で調節出来ている。こればかりは個体差が大きいから、ぴったりな魔素の食事を用意するのは難しいしな。」
クルビスさんの言葉が聞こえていたのか、周囲のテーブルにいる隊士さん達が私に会釈してくる。
どうやら、本当に喜ばれてるみたいだ。
思わぬ所で評価が出たなあ。
まさか味付けでこんなに感謝される日がくるなんて思いもしなかった。




