雨季ー26
シードさんが通信機に急いで向かうと、キィさんがキーファさんに術士部隊を1階に集合させるよう命令する。
場合によってはあちこちに魔素の網を張る必要があるからだそうだ。
急いで上に向かうキーファさんを見送りながら、「さっき、雨季でのでかい魔素の扱い見せといて良かった~。ナイス判断。俺。」とキィさんがしみじみつぶやく。
この様子だと、キーファさんも雨季で大きな術式を使うの初めてだったんだ。
そういうのってお手本見せてもらえるかどうかがすごく大事だよね。
ホントにいいタイミングだ。特に術式なんて実践してなんぼの世界だろうし。
「リリィ。治療部隊で目の利くものの選抜を。数は5です。残りは待機しておいた方がいいでしょう。」
「はい。隊長が外に行かれますか?」
「他の地区でも起こっているなら、私が出ます。その場合は警戒レベルは最上級で準備をすすめるように。」
フェラリーデさんも治療部隊について、隣のテーブルでリリィさんと話し合っている。
いつも優雅に微笑んでるフェラリーデさんが厳しい顔できびきび指示を出している姿は新鮮だ。
隊長さんだもんね。
体術も得意だってシードさんに聞いたし、細身に見えて鍛えてるんだよねえ。
フェラリーデさんはどちらかというと後方支援のイメージが強かったから、意外だと思ったのでよく覚えている。
でも、実力主義のこの街なら、隊長さんクラスになると当たり前なのかもしれない。
クルビスさんだって、戦士部隊なのに術式に詳しいもんね。
シードさんは身体能力アップとかの魔素コントロールくらいなら出来るって言ってたけど、それを真似ようとして医務室に運びこまれてる隊士さん見てるから、これも中々出来ないことらしい。
私の印象では、隊長さんクラスになるにはバランスよく能力が備わってるのが条件のような気がする。
北の守備隊しか知らないから絶対じゃないけど、この予想は良い線いってるんじゃないかな。
「確認取れました。西と南でデカいヒビが川の傍でついさっき見つかったそうです。処置を施したら地下に連絡入れることと、こっちにも連絡くれるよう頼みました。」
「わかった。東もこれからあるかもしれないな。警告を…いや。先に中央に報告しよう。もう街全体のことだ。」
「ああ。」
話がどんどん大きくなっていく。
街中が狙われちゃうの?
「うん。じゃあ、ルー君、中央まで送っていくよ~。」
「ああ。頼む。また街じゅうに網を張るなら声をかけてくれ。魔素は貸せる。」
「ありがと~。その時はお願いするよ~。まあ、今は術士の数が多いから大丈夫だろうけどね~。」
「ああ。確かに。ではな。私は戻る。…街を頼む。」
「「「はい。」」」
帰っていくルシェリードさんに皆さん敬礼で見送る。
もちろんクルビスさんも。片手に私を抱えるのは仕様です。




