雨季ー25
「ただいま~。」
そのままメルバさんの話をしてると、かなり短い時間で当の本人が戻ってきた。
しかも、ルシェリードさんも連れて。
驚いたのは周囲だ。
そりゃそうだよね。
雨季の中の転移だけでも驚くのに、街のトップが一緒に来たら誰だって慌てるだろう。
でも、妥当な判断だと私は思った。
街が出来た頃のことを知っていて、現役なのはメルバさんとルシェリードさん達ドラゴンの一族くらいだろう。
なら、一緒に魔素の網を張ったルシェリードさんに来てもらう方が話は早いと思う。
「そのままで、面倒なことになったようだ。あの時、つぶしきれなかったことがここまで後引くとはな。」
目を細めて悔しそうに言うルシェリードさん。
うわあ。怒ってる。魔素も普通だけど、何となくわかる。
ルシェリードさんの怒り方ってクルビスさんに似てるんだよね。
いや、まあ、ここまでクルビスさんを怒らせたことはないけどね?
…あるや。今日実感したばっかりだった。
腕に力がこもるのに気づき、急いでクルビスさんにもたれる。
すぐに力は抜けたけど、危なかった。
まさかルシェリードさんまでだめだなんて思わなかったなあ。
「おお我が孫たちよ。仲睦まじいようで、何よりだ。だが、籠らなくていいのか?」
私たちを見て驚いた顔でルシェリードさんが聞いてくる。
ルシェリードさんにとっては、私たちがここにいるのがかなり意外だったようだ。
「ええ。雨季はいろいろありますから。」
「ふむ。そうか。だが、無理はせぬように。お前たちの魔素は影響が大きいからな。」
「はい。」
これって、場合によっては部屋に籠ることもあるってことかな。
ドラゴンのルシェリードさんに言われると説得力あるなあ。一応覚悟しておこう。
「さて、問題のヒビについてだが、私も例のヒビの跡を見てきたのだが、当時のものと似ていると思う。ずいぶんコントロールが効くようになったみたいだがな。」
苦々しい表情でルシェリードさんが言う。
牙がちらちら見えて、大変怖いです。
「そうなんだよね~。今回のは街の方にしっかり向かっていたし、キィ君たちが遅かったらあそこから派手に崩れていたと思うよ~。もしかしたら、他の地区でも同じようなことが起こってるかもね~。シー君、至急他の地区の子たちに、同じようなことが起こってないか連絡取ってもらえる?」
「はいっ。」
一気に空気が物々しい感じになる。
他の地区でもって、キィさんやキーファさんくらいの術士って滅多にいないって言ってたのに、同じことがあったりしたら。
式で祝福してくれた街のひとたち。
あのひと達が酷い目に合うだなんて。そんな。




