雨季ー24
「ふう。それにしても、詳しく聞けば聞くほど、キィとキーファがいてくれて良かったですよ。雨季で術式を使える術士は滅多にいませんから。」
戻ってきたフェラリーデさんが困った顔でキィさんとキーファさんが言う。
確かに。話を聞いてると、ヒビだけだって話だけど、この大雨ならすぐに水がしみ込んで周囲は崩れ出しただろう。
キィさん達の対応が早かったからこれだけで済んだんだ。
雨季に術式を使うのが難しいってわかった後だと、余計にすごいことに思える。
「嬉しいがな。長さまのあれを見た後じゃなあ。」
「まったくです。」
でも、ふたりはさっきのメルバさんの転移を見たからか、謙虚な反応だ。
メルバさんは規格外だと思うから、比べても仕方ないと思うけどなあ。
異世界のドラゴンの血も引いてるから、魔素の量もコントロールも群を抜いてるだろうし。
そう思ったひとは別にもいたようで、フェラリーデさんが苦笑して答えている。
「あの方は我が一族でも特別ですよ。異世界の術式の知識をもとに魔素を活用されているので、我々が扱うものとは元々少し違うのです。」
「ああ。「冒険者」な。」
フェラリーデさんの説明にクルビスさんが反応する。
それにシードさんも加わった。
「異界の職だったよな?たしか。」
「ええ。何でも屋に近いそうですが、そこで、異世界の術式を使う仕事をなさっていたとかで、世界中を回って術式の知識を集められたそうですよ。その辺は長老方が詳しいですね。」
あー兄ちゃんと一緒に旅してたって言ってたもんなあ。
エルフの長命なら、あー兄ちゃんに出会う前から冒険者やってただろうし、あらゆる所を見てきたに違いない。
フェラリーデさんの説明にキィさんやキーファさんは興味深々だ。
リリィさんも知らなかったことがあるのか、驚いた顔で聞いている。
本人からそれとなく聞いてはいたけど、メルバさんの術式には経験に基づく実績があったわけだ。
さらには、こっちの世界に来てから2000年っていう途方もない歳月を、知識を求め、それを他人のために使い続けたんだもんね。すごいひとだなあ。
エルフたちだけじゃなく、多くのひとから尊敬されるのがわかる気がする。
普段のあの様子からはとてもそうは見えないんだけど。
長老さん達がちゃんとした格好させたがるのわかる気がするなあ。
まあ、ここの暑さでエルフの正装はキツイけどね。




