雨季ー20
「お待たせしました。確認が取れましたのでご報告いたします。」
キーファさんが礼の形を取って、報告を始める。
メルバさんとフェラリーデさんは私たちと同じテーブルに、リリィさんは隣のシードさんと同じテーブルについた。
ちなみに、私はクルビスさんのおひざの上。
もう定位置になったみたいで、変えられません。
入れ替わるように隊士さんたちは地下に訓練にいっちゃったし、今は1階はがらんとしている。
話をするには丁度いいかもしれない。
私も部外者だからと、キーファさんが戻ってきた時もお仕事の話だから遠慮しようとしたけど、クルビスさんに腰をがっちりつかまれて移動は出来なかった。
メルバさん達もニコニコと頷いてるからいても良いみたいだけど…。本当にいいのかな?
「長さまに確認を取りましたところ、今回のヒビには水そのものを術式に用いた可能性が出て来ました。」
キーファさんの報告が始まると、緊迫した空気が流れる。
場違いな気はするけど、大人しく聞くことにした。
「普通、術式と言えば、魔素を定められた式を使って一定量固定し、求める現象を引き起こすものです。ですが、今回使われた可能性のある術式は、川の水を媒体に使うことで使う魔素の量を減らし、さらには使った媒体そのものも川に流すというものです。これなら、術式の痕跡がほとんど見つからなかったことの説明がつきます。」
へえ。術式って魔素を固定化するんだ。
どうやるのかはさっぱりわからないけど。
存在するための力を固定化したら、現象になるっていうのはちょっとだけわかるかな。
ラノベで近い設定があったから。あっちは魔法だったけど。
「ちょっと確認していい~?」
「どうぞ。長様。」
「キーファ君からも事情は聞いてるけど、そのヒビって他の皆から見ても、自然現象の可能性はまったくない~?僕、直接は見てないからわからないんだけど、川はかなり増水してるよね~?」
まあ、普通、川の側面からヒビが入ったって聞けば、自然現象の可能性を考えるよね。
でも、直接見てきたクルビスさん達は最初から術式の可能性を疑ってた。
何か理由があるのかな?
私は崩れたんじゃなくて、ヒビが入ったって話で一気に力が加わったのだと思ったんだけど。
「水がヒビを広げたということはあっても、原因そのものでは無いと思います。」
「キィ君~。根拠は~?」
「まず、ヒビの入り方が不自然でした。川の流れとは、こう、逆向きに街に向かって真っ直ぐヒビが入っていました。自然現象なら、川の流れに沿ったものであるはずです。そして、自然にヒビが入るなら、この雨と川の増水で川の淵が崩れてくるはずですが、今回のヒビの周りはほとんど崩れた様子もなく、ただ、街に向かってヒビが大きく出来ている、といった様子でしたので、俺もキーファも術式によるものだと思いました。」
キィさんの説明に、現場を見ていないメルバさん達が顔をしかめる。
どうやらヒビはささくれみたいに、川の流れとは逆向きに入っているらしい。
そんなヒビ、自然じゃあまず起らないだろう。
そして川の淵も崩れもしていなかったっていうし、詳しく聞けば聞くほど不自然な感じがする。
でも、術式が使われたとして、前もろくに見えない雨季の中、一体誰がそんなことをしたんだろう。
街を破壊するにしても変な方法だよね?




