雨季ー19
「ぶきっ。」
ん?あ。ネロがご飯食べ終わったみたいだ。
テーブルの下から出てくるのかと思ったら、何故か私とクルビスさんの間から顔を出した。
「「…。」」
クルビスさんと見つめ合ったかと思うと、私の方にすり寄ってくる。
頭を撫でてあげると満足したのか、「ぶきっ。」と一声鳴いて、私とクルビスさんの間をすり抜けて隣のテーブルにいたシードさんの方に向かう。
「お~。食べ終わったのか。美味かったか?」
「ぶきいっ。」
胸を張って答えるネロ。
たしか、お昼ご飯の後はシードさんと訓練してたはずだから、それでシードさんの所に行ったんだろう。
日々成長してるらしくて、最近はすっかり甘えてくることが減ってしまった。寂しいなあ。
お尻がとがってきてるけど、そのうちこれが尻尾になって、今度は羽の代わりに鱗が出てくるらしい。
ヒヨコが恐竜になっていく様子は見てて不思議だけれど、これも成長の表れだと思うと感慨深いものがある。
手の平に乗るくらいだったのに、今では私の腰骨くらいの背丈だ。
「悪いな。ネロ。今日は緊急事態だから、訓練は無しだ。下でチビたちと遊んでてくれるか?」
「ぶっ。」
ひとつ頷くと、ネロはてってと階段の方に向かう。
セパの子って頭がいいらしいけど、ネロはその中でも特別らしくて、最近は決められたメニューを自発的にこなすようになったらしい。
運動を始めた子供たちとも一緒に走ったりして、仲良くやれているみたい。
その様子が見たいんだけど、そうすると私の所にきちゃうから訓練にならないってシードさんに止められてるんだよね。
下手に甘やかすときちんと仕事をこなせないセパになってしまうので、訓練の時は甘える対象、つまり私は近づいちゃいけないことになってるそうだ。
仕事の出来ないセパは食用にされちゃうっって聞いてるし、実際そうらしいので、ネロにはしっかり訓練に励んでもらいたい。
「いってらっしゃい。ネロ。」
「ぶっ。」
私が声をかけると、一度振り返って頷くネロ。それから階段を機嫌よく降りて行った。
前々から思っていたけど、言葉が通じてるように思うのは気のせいじゃないと思う。
「…ネロが賢いのは知ってたけどよ。言葉わかってねえか?」
同じことを思ったらしいキィさんが階段の方を見ながらつぶやくように言う。
クルビスさんもシードさんも頷いている。
「魔素で感情を読み取ることはあるらしいが、確かにこちらの言うことを理解してる風だな。シードはどう思う?」
「あいつはいろいろ規格外だからなあ。成長も早いしよ。長さまの話じゃあ、野生種のボスになるやつは他の個体より能力が抜きんでて高いらしいから、ネロもそうかもな。でっかくなったら、守備隊のセパたちのボスになるかもしれないぜ?」
ネロってボスになる素質があるんだ。
賢い子だもんね。きっとなれると思う。
「だが、ハルカと離れたがらないだろう。中央にはやれないぞ?」
シードさんの話にクルビスさんが難色を示す。
ネロって中央に行くの?というか、大きくなっても私と離れたがらないって、運搬用のセパとしては大丈夫なんだろうか。
「それはまた、でっかくなってからネロに聞いてみたらいいんじゃねえか?あれだけ賢いなら、自分で選べるだろう。」
キィさんが先延ばしとも取れる提案をしてくれる。
まあ、確かにネロなら自分で選べそうだ。こっちに残るって主張しそうだけど。
「戻りました。」
ネロの事で盛り上がってると、キーファさんが降りてきた。
後ろにはメルバさんもフェラリーデさんもリリィさんもいる。
北の守備隊の隊長格の揃い踏みだ。
何か大事なことがわかったんだろうか。




