雨季ー11
汁粉を食べ終えると、それぞれ転移陣や部屋の準備で上に向かっていく。
クルビスさんと言えば、私を膝抱っこしたまま、食堂に待機だ。
「…クルビスさんはまた外に行くんですか?」
「いや。一番危ない場面は切り抜けたから、しばらくはここで待機だな。」
そうなんだ。じゃあ、もう危ないとこに行かなくていいんだ。
良かった。帰ってくると信じていても、やっぱり心のどこかで怖かったから。
きっと、これからこうやって心配して、そしてホッとしながら出迎えるのが当たり前になるんだろう。
でも、今はまだ慣れそうにないや。
「ハルカ?」
ちょっとだけ、クルビスさんがいるってことを実感させて下さい。
クルビスさんにもたれかかって、自分の汁粉に手を伸ばす。
クルビスさんがスプーンを取り上げようとしたけど、無視した。
ホッとして泣きそうになってる顔なんて見せられません。
ぽふぽふ
私の行動に何を思ったのか、頭を軽くたたくように撫でて好きにさせてくれる。
しばらくその状態で汁粉を食べ終えた頃。
「はあ~。仲良いね~。さっすがハニームーンなふたり~。」
聞きなれた独特の話し方でメルバさんが登場した。
あれ?里に帰ったんじゃなかったっけ?
雨季は転移陣が作動しにくいから、早めに帰って備えないとって言ってたのに。
もう帰ってきたの?
「長。いらしてたのですか。」
クルビスさんも驚いている。
私がメルバさんをがん見しても怒らないくらいだ。
「街の様子がおかしかったからね~。ちょっと見に戻ってきたの~。あ。僕にも汁粉1つちょーだい~。」
ウキウキと汁粉を注文するメルバさんを見て、きっとフェラリーデさんに聞いて降りてきたんだろうなあと思う。
幸せそうに汁粉のお椀を受け取って、鼻歌を歌いながら、私たちの前まで来た。
「ちょっとお邪魔してもいい~?ごめんね~?急いでるから~。ヒビが入ったんだって~?」
ヒビ?さっき、キィさん達も駆り出されたあれ?
そんなに深刻なものだったの?
「ええ。森を出て西に20行ったところです。街の中までヒビは入り込み、住宅に振動が伝わっていました。」
「うわ~。それ、デンジャラス~。地下にも影響あるかなあ~。」
地下?地下って、噴水とか収納されてる、たぶんデッカイ施設のある?
そっか、ヒビなら地下まで言ってるかも。うわあ。怖いなあ。
「わかりません。地下担当者に連絡を送り、現在、確認してもらっている所です。」
「そっか~。僕、しばらくここにいるから、何かあるようなら言ってね?」
メルバさんは発明家で研究家。
きっと地下施設を作るのにも関わってるんだろう。
そんなひとがいてくれたら心強いよね。
クルビスさんもそう思ったのか、感謝の魔素を放ちながらお礼を言っていた。
「ありがとうございます。お心づかいに感謝します。」
「気にしないで~。んっ。ご馳走様。お汁粉、美味しかった~。ディー君が自慢するから飛んできたんだよ~。」
あれ?メルバさんも汁粉目当てだった?
物欲しそうにお汁粉の鍋を見てる様子からすると、そうかも。
ルドさんが何も言わずに新しい汁粉のお椀と交換していったのが、何とも言えない。
感動したのに…。汁粉の誘惑の方が強かったなんて。




