雨季ー9
そうと決まれば、プロの仕事はホントに早くて、あっという間に仕度が出来た。
私がやったことと言えば、味見くらい。
「美味しい。豆も柔らかいですし、お塩もちょうどいいです。」
「良かったっす。これだけあれば、魔素をかなり使ってきても対応できるっすよ。」
ベルさんに感想を伝えると、ベルさんも一緒に手伝っていた調理師さんたちも嬉しそうな顔をする。
これで、大きな寸胴にたくさん入ったお汁粉が5つ出来上がった。
こんなにたくさん必要なのかなって思ったけど、他の隊士さんにも振る舞うので問題はないらしい。
味が良くて魔素が上手く補給できる料理が出来たのが嬉しいらしく、汁粉の完成に皆さん満足気だった。
ものすごい庶民的なレシピでここまで喜んでもらうと、何だか申し訳ない気がしちゃうなあ。
でも、皆さん喜んでるし、作りやすいのが良いってことだったし、良いかな。
「はーっ。ただいま。つっかれたあ。何か食うもんくれ。大至急!」
そこに疲れた様子のキィさんとキーファさんが帰ってきた。
慌てて、今作った汁粉をお椀に注いで持っていく。
「どうぞ。今ちょうど、汁粉が出来たところなんですよ。温まります。」
「おお。こりゃいい。ハルカのレシピか?」
「ええ。今日再現したんです。キーファさんもどうぞ。」
「ありがとうございます。…私たちが先に頂いてよろしいんでしょうか?」
え?何で?
キィさんもハッとした顔でスプーンを置いちゃうし。
「大丈夫。作ったのは調理部隊だ。平気だろう。後はハルカがあまり他のやつに近づかなければ大丈夫だ。」
私が首を傾げていると、ルドさんが出てきて調理部隊で作ったものだと説明してくれ、キィさんもキーファさんも納得したように食べ始めた。
でも後半が納得いかないんですけど。
「あの。それって、さっきクルビスさんがおかしかったことと関係あります?」
「ああ。そっか知らねえんだな。あいつはドラゴンの血が濃いから、ドラゴンの習性が結構出るんだよ。伴侶への独占欲がその一つだな。番になったばかりの蜜月の時期は特にすげえ。離れたがらねえし、自分以外には陽球にだって目を向けるだけで嫉妬するからな。」
ええっ?自分以外にって、陽球にもって、じゃあ女性もダメってこと?
キィさんが教えてくれた内容に仰天する。
じゃあ、さっきルドさんとアニスさんと厨房にこもって作ってたのって、かなりやばかったんじゃあ。
ルドさんを見ると、深く頷かれる。マジですか。
「よく離したなと感心したが、やはり長い時間は無理みたいだな。気をつけた方がいい。誰かと話す時も、もう少し離れて立っていた方がいいな。そう、その辺だ。」
ルドさんが深々とため息をついて、さっきの状況を教えてくれる。
今までより、1歩半下がった状態で話す方がいいなんて、ドラゴンの番大好きも困ったものだ。
「そうだったんですね。トカゲの一族のことばかりで、ドラゴンの一族のことは詳しくは聞いてませんでした。」
新婚時期は離れられないのかあ。そして、他のひとに近づくのも無理だと。
これは気をつけないといけないなあ。
クルビスさんも教えてくれればいいのに。
種族の習性なら仕方ないことってあると思うし。
「クルビス隊長はトカゲの一族ですから、そう思われるもの仕方ないですよ。詳しくはクルビス隊長からお聞きした方がよろしいでしょう。もうそろそろお戻りのはずです。…その前に、先程のお礼を。水菓子を勝手に頂き申し訳ありません。とても助かりました。」
「あれはルドさんが作って下さったものですから。お礼はルドさんに。」
「おお。そうか。ルド。俺もホントに助かったぜ。ありゃ、魔素の補給にいいな。厨房で定期的に出せないか?」
キーファさんがさっきの水菓子のお礼を律儀に言い、私がそれを訂正すると、キィさんも同じくお礼を言ってルドさんに水菓子の厨房での提供を呼びかける。
そんなに魔素が補給しやすかったのかあ。おやつに水菓子食べてる子供たちも回復が早いって言ってたもんなあ。
「ハルカ。」
っ。耐えた。変な声でるのは耐えた。
もう。そのいい声で耳元でささやかないで下さいよ。それより言うことがあるでしょう?
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
チュッ
だから、デコチューはいりませんから。
…あれ?蜜月だとこれも普通なのかな?




