雨季ー7
ぴーっぴーっぴーっ
クルビスさんにそれとなく聞こうと思ったら、けたたましい音がホール中に響き渡る。
その途端にさっきまでとは違う緊張が張り詰めていく。
食堂のカウンターから階段を挟んで対象の位置に守備隊の受付兼事務カウンターがあるのだけど、音はそこから聞こえていた。
この音って、エルフの里でも聞いたことがある。たしか通信機の音だ。
「はい。こちら北の本部。」
『こちら、森の入口詰め所!森の入口詰め所!西側の、街の方の、川の壁が、崩れかかっている!繰り返す!西側の、街の方の、川の壁が、崩れかかっている!ヒビが広がって、街の中にまでいきそうだ!避難と補修の手が欲しい!』
カウンターにいた隊士さんが通信機に出て、相手が叫ぶように連絡内容を伝えてくる。
街中にまでヒビがいくなんて、かなり危ない状況だ。
こっちは堤防みたいな作りはしてないのかな?
してても、この雨なら意味ないかも。
いつの間にか私を下したクルビスさんは、通信機を代わって少しやり取りをすると隊士さんたちに次々と指示を出した。
それを聞いた隊士さんたちは入口にある雨具を身につけて外に飛び出して行く。
こっちの雨具はポンチョ型の合羽だ。
傘は意味がないので作らなかったとメルバさんから聞いている。
「こちら事務局。こちら事務局。」
『こちら術士部隊隊長室。聞いてたよ。』
「そうか。術士の派遣を頼む。誰が行く?」
『俺とキーファが行く。時間がないな。先に行っといてくれ。』
「了解。」
キィさんとのやり取りが終わると、降りてきたシードさんに地下に避難具を出すよう指示を出して、クルビスさんも雨具を羽織ると飛び出して行った。
その様子を見ていたシードさんは私を見て不思議そうに首をひねっていた。
「あいつ、蜜月によく離れられたな。マジすげえわ。」
たぶん、あ~んってしたからだと思います。
蜜月ってあつあつの新婚って意味だっけ?クルビスさんの様子と関係あるの?
ルドさんに聞けばわかるかな。
後でお汁粉の続き作る約束してたし、聞いてみようか。
それにしても、今のがお仕事モード全開のクルビスさんかあ。
カッコいいなあ。びしっと指示を出してて。
普段は見ることのない姿だ。ほれぼれしちゃった。
クルビスさんも現場に行ったのはびっくりしたけど、出て行ったのは単色のひとばかりだったから、クルビスさんも向かったのかもしれない。
大変そうだったけど、ケガしたりしませんように。
それからすぐにキィさんとキーファさんも降りてきて、外に行く前にキィさんが「もらうぜっ。」と言って残ってた水菓子をポンポンっと口に放りこんでいった。
珍しく、キーファさんも「急ぎですので、お礼はまた後で。」と言って水菓子を口に放りこんでいく。
そういえば、お砂糖を使ったお菓子って魔素の回復に良いんだっけ。
これから魔素をたくさん使うふたりには丁度良かったんだろう。
こうやってお役に立てるなら、頑張って再現したかいがあるよね。
「ハルカさん。お疲れ様です。では、厨房に戻りましょうか。さっきの暖かいスープをもう少し用意出来たら良いと思うんです。」
私の考えを読んだのか、アニスさんが暖かい汁粉の準備を勧めてくれる。
たしかに、あれならすぐ出来るし、雨に打たれた後ならいくら気温が高くても暖かいものの方がいいだろう。
「そうだな。今回は時間がかかりそうだし、魔素もかなり使うだろう。あれなら、すぐに作れるしな。団子がなければ、他の調理師たちも手伝える。…教えてもいいだろうか?」
いつの間にか出て来ていたルドさんも汁粉の提供を押してくる。
レシピを教える許可を求められたけど、私の答えなんて決まってる。
「もちろんです。たくさん作ってたくさん食べてもらいましょう。」
私の返事にふたりも笑顔で頷いてくれた。
さあて、忙しくなるぞお!




