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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
番外編 新婚編
310/360

雨季ー1

 ドドドドドッ



 外から滝かと思うようなすごい音が聞こえてくる。

 これが雨の音だと聞いた時は驚いたなあ。



 でも台風と違って風は酷くないから、雨さえしのげれば何とかなりそうだ。

 その雨が大変なんだけど。



「ずっと降ってますね。」



「まだまだこれからですよ。この時期は雨が途切れませんから、初めての方は驚かれます。」



 向かいに座るアニスさんが私のつぶやきにも丁寧に答えてくれる。

 一階の食堂で食事中なんだけど、中は待機中の隊士さんたちで一杯だ。



 何かあったら飛び出して行かないといけないから、いつでも動けるように準備しているそうだ。

 それでも、動いている方が性にあうらしく、順番に交代で地下に訓練に行っている様子にアニスさんはあきれ顔だ。



「じゃあ、川とか水があふれたりしませんか?」



「私は聞いたことありませんので、ほとんど無かったと思います。川は海に向かって傾斜をつけてありますし、街に振った雨は地下に流れて別で海に流していますから。」



 雨が降り続けると聞いて質問してみると、驚きの排水設備だった。

 川の整備もそうだけど、地下に収納されてる噴水といい、ここの地下施設ってすごいんだろうなあ。



「じゃあ、安心ですね。外に出れないのは退屈ですけど。」



「そうですね。雨季はどうしてもそうなりますね。」



 アニスさんと苦笑しながら外を見る。

 入口から見える外の景色は真っ白だ。



 こんなにすごい雨には初めて見た。

 これじゃあ、外に出ても雨の圧力で動けなくなりそうだ。



 クルビスさん達もこの中でお仕事に出るの大変だろうなあ。

 アニスさん達のような治療部隊の隊士さんは、雨季の間閉めている薬屋や医務局の代わりを務めるからずっと待機らしいけど。



「でも、皆さんも外に出ても見えないですよね?どうやって移動してるんですか?」



「魔素を飛ばして物の配置を確認するんです。隊士は皆出来ますよ。」



 潜水艦みたい。

 魔素っていろいろ使えるんだなあ。



 そんなことを話していると、暖かい魔素にふわりとつつまれる。

 この魔素は…。



「ハルカ待たせた。間にあったか?」



「ええ。まだ食べてる所です。」



 クルビスさん、ようやく来た。

 実は私たち、新婚なのに、雨季になってから夜寝る時以外は食事の時くらいしか顔を会わせていない。



 私も授業が再開したからなんだけど、何よりクルビスさんが忙しいからだ。

 本当は雨季はそこまで忙しくなくて、ゆっくりお休みをもらえる予定だったんだけど、式の前に毒を流されたことで、例年になく忙しくなってしまったんだよね。



 水に溶けた毒がどう影響するかわからない上に、行方不明になってる分があるらしく、街中で警戒態勢に入っているのだそうだ。

 それに関してはカメレオンのあの家族がうらめしいけど、毒が関わってるのにお仕事を疎かにして欲しくない。



 これが落ち着いたら、きちんとお休みがもらえるみたいだし、それまでは一緒にいれる時間を大切にすることにして、せめて食事はなるべく一緒に取ろうと約束したんだよね。

 中々上手くいかないけど、今日は食べてる途中で合流できたから良い方だ。



「今日の授業は終わった?」



「はい。お昼からはお菓子をまたいくつか作る予定です。」



 昼からの予定をクルビスさんに話す。

 メルバさんがエルフの里に帰っているので、今は午前中にフェラリーデさんの授業があるだけ。



 昼からは自由だけど、襲われたこともあるので自分の居場所は知らせることにしている。

 雨季にあまり一緒にいれないとわかって、最初に決めた約束事だ。



「水菓子?」



「いいえ。それも作るんですけど、豆を使った冷たいスープを作るんです。これから暑くなるのに丁度いいかなって。」



「…スイーツなんだろう?」



「ええ。スイーツですよ。」



 クルビスさんには冷たい善哉や汁粉はイメージ出来ないものみたい。

 アニスさんはメルバさんから聞いてるのか、目をキラキラさせていた。



「豆を使うということは餡子を使うのですか?」



「そうですね。それをスープ状にするというか…。説明が難しいですね。見てもらうのが一番でしょうか。」



 食べろとは言いません。

 こっちの豆は煮詰めると色が濃くなるから、えぐい見た目になる可能性があるんだよね。



 ココナッツ汁粉みたいに、餡子に合う白い果汁とかあるといいんだけど。

 今回はそれも探したいんだよね。ルドさんにお願いしてるけど、あるかなあ。

今日から新婚編です。

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