婚姻の式(アニス視点)
本日も2000字程。
式の最初から最後までの話です。
今日はハルカさんとクルビス隊長のお式の日。
朝から緊張します。今日はハルカさんの付添いをするのですから。
初めて袖を通す銀のラメの入った礼服にどきどきしたけれど、それも準備で忙しくてすっかり忘れていました。
ハルカさんに「女性の礼服も隊服と形は同じなんですね。」って聞かれて、思い出せたくらい。
リリィ副隊長はご自分の色の刺繍を施された式服をお持ちだけど、私たちの礼服はいつもより上等な布地で作られた隊服です。
それでも、いつもより華やかな気分になって、何だかウキウキしてきました。
「おおっ。やっぱり当日はひと際綺麗だなあ。おめでとうさん。」
隊士の皆が出迎えてお祝いを言っていると、キィ隊長とキーファ副隊長がいらっしゃいました。
隊長格のお二方も礼服を着用なさっています。
礼服を着こなした隊長たちが揃うと見ごたえがありますね。
キーファ副隊長もとても素敵です。
そのキーファ副隊長はハルカさんに見とれてしまっているようです。
それも仕方ありません。だって本当にお綺麗なんです。
黒のドレスに白のベールが映えて、さらに白のブーケに輝石が輝きを添えます。
何より、今日のハルカさんの魔素は光り輝いていて、見るものを魅了します。
もしかしたら、キーファ副隊長はハルカさんの魔素をご覧になってるのかもしれませんね。
キーファ副隊長は「目」が効く方ですから。
ご挨拶の後、キィ隊長とキーファ副隊長はハルカさんのベールの秘密に気付かれました。
さすがです。少し見たくらいではわからないのですが、おふたりにはわかるようですね。
それに気づいた他の隊士たちもベールに注目し始め、キィ隊長はベールの貸し出しをハルカさんにお願いしていらっしゃいました。
他の術士にも見せたいとおっしゃいましたが、きっと術式の解析と刺繍とのバランスを研究されるのでしょう。
奥様のリビー様が刺繍の新しい活用方を研究なさってるそうなので、それに活かされるおつもりではないでしょうか。
そのうち長にもお話がいって、共同研究になるかもしれませんね。
「…アニス。」
「はい?」
キーファ副隊長に呼び止められます。
これから転移室に行くのですが、何かあったのでしょうか?
「今日は一段と綺麗ですね。」
ハルカさん?いえ、すでに先に行かれましたし、魔素は私に向けられてます。
…もしかして、私のことでしょうか?
「ありがとうございます。」
何だか身体が軽くなったような気もします。単純ですね。
でも、今日はいいことがたくさんありそうです。
転移室の中はハルカさんとクルビス隊長の心地よい魔素で満たされていました。
こういうのを「らぶらぶ」っていうんだって、入院中の小さい子たちに教えてもらいましたが、そうなるとおふたりはいつもらぶらぶですね。
その後もおふたりの共鳴は、街のお祝いの魔素に負けることなく辺りを包み、まるで自分もこの上ない幸福の中にいるようなそんな気分にさせてくれました。
白のベールに対する驚きや拒否するような魔素や言葉もありましたが、それもおふたりの幸福そうな魔素になりを潜めていました。
我が一族の伝統でもある白のベール。
このままいい印象になって、復活してくれると嬉しいですね。
ただ、すべてが順調には行きませんでした。
カメレオンの一族と赤の一族がお互いをけん制して、一触即発になりそうになったのです。
カメレオンは一族のものが重犯罪を犯したことで焦ったのでしょうが、出迎える場所を赤の一族と被ったのがまずかったですね。
ですが、驚くことにこれもおふたりは共鳴で黙らせてしまったのです。
魔素で圧力をかける方法はありますが、まさか共鳴を使って言葉を失わせてしまうなんて思いもしませんでした。
おやりになったのはクルビス隊長ですが、失礼な魔素を投げかけていた女性たちもいましたし、ハルカさんも共鳴に文句は無いようでした。
その後もクルビス隊長はたびたび共鳴を起こしてましたが、私はハルカさんが魔素の使いすぎにならないかずっと心配でした。
いくら共鳴で魔素が膨れるといっても、あれだけ周りに影響する魔素を放出していればいずれは疲れてしまいます。
ですが、そんな私の心配にワースは「大丈夫ですよ。伴侶に負担をかけるなんてありえませんから。」と言ってくれました。
クルビス隊長はドラゴンの血が濃い方なので、ワースの言うことに一理あると思い、クルビス隊長を信じることにしました。
事実、最後までハルカさんは歩くのに疲れた様子は見えたものの、魔素の使い過ぎの症状は出ませんでした。
普通、自分以外の魔素の消費までコントロールできるのは術士だけなのですが、クルビス隊長が術士になれる戦士だというウワサは本当だったようです。
そして、最後にクルビス隊長が守備隊に駆け込んだ時、周りの方々は「やっぱりか。」と笑ってらっしゃいました。
どうもお父様のフィルド元隊長が同じことをなさったそうで、北の隊長の伴侶への溺愛ぶりが周知の事実となった瞬間でした。
さて、この後たしかおふたりで星街にお出かけなさるんでしたよね。
急いでおいかけて、ハルカさんのお仕度を手伝わないと。
怜龍さまからのリクエストでした。




