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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
番外編 リクエスト話
307/360

3長老と長の集い

1900字程。

スタグノ族ー青の一族の後の話です。

 お茶の追加を注ぎながら、黄色い髪のデルカがポツリとつぶやく。



「あの子もがんばっとるの。」



 それに青い髪のコルトと赤い髪のディランが頷く。

 最初に遥加に出会った時、3人は大人しい女性だという印象を持った。



 だが、彼女は周りを味方につけ、己の知識を駆使して異世界の菓子を再現し、さらにはそれを武器に各一族と渡り合っている。

 彼女の兄、当を彷彿とさせる行動力だ。



「似とらんと思ったんじゃがなあ。」



「まったく、あの行動力、よう似ておるわい。」



 懐かしい顔を彼女に重ね合わせて思い出す。

 そこに長であるメルバが驚きの情報をもたらした。



「そりゃそうでしょ~。小さい頃からあーちゃんについて行っては迷子になってたらしいしね~。それでもあきらめないでついて行ってたらしいし?」



「なんとっ。アタルにですか?」



「そりゃすごいのう。」



「大したもんですなあ~。」



 彼らが憶えている福井当という男は、ある日里に来て攫われたエルフ達をあっという間に取り返し、神の樹木である世界樹を持ち込み、ドラゴンと昼寝をする破天荒なヒト族である。

 その彼に、幼い頃とはいえついて行こうとするなど、遥加も普通のヒト族とは違うことをうかがわせる話だった。



「成る程のう。」



「それであれ程落ち着い取ったんじゃなあ。」



「普通は異世界に来たらもっと混乱しとるじゃろうに。」



 彼らが初めて対面した時、彼女は異世界に来てまだ1ヵ月も経っていなかった。

 だが、異種族を受け入れ、帰れないことを受け入れ、婚約までしていた。それもあのクルビスとだ。



 普通ならあり得ないことだろう。最悪心身を病んでいるところだ。

 だが、彼女はごく普通に挨拶に来た。いつも飄々としていた当を思い出す。



「それもだけど~。クルビス君がいたからかもね~。」



 メルバの言葉にふたりの番を思い出す。

 お互いがお互いをとても大事にしている良いカップルだった。



「そうですのう。あのふたつは良い番じゃ。」



「クルビス坊やにとっても良かった。」



「ほんに。あの子はやっと安らげる場所を見つけたようですしな。」



 遥加の傍で嬉しそうに笑っているクルビスを見た時は驚いたものだ。

 あんなに穏やかに笑えるのかと驚き、そして安心した。それは3人だけでなく、メルバも他の一族もそうだろう。



 2代続けてドラゴンの血を濃く受け継ぎ、さらに黒の単色であることでトカゲの一族の中でも他の場所でも孤立しがちな子供だった。

 その上、祖父はあの偉大なドラゴンルシェリードだ。誰もが畏怖を感じ、魔素のこともあって簡単には彼には近づけなかった。



 周りの思惑に振り回されないよう、母のメラと共に里であずかったりもしたが、その当時からあまり笑わない子どもだった。

 自分の感情の出し方ひとつで、周りに与える影響を十分過ぎる程理解していたからだったが、長老たち老齢のエルフはそれをかつてのルシェリードと重ねて胸を痛めていた。



 長い長い生をたった一つきりで。それは当方も無く続く恐怖だ。

 ルシェリード程でなくても、黒の単色のクルビスも一族の中では飛びぬけて長命だから尚更だった。



 友も周りのものたちもいずれは彼をおいて行ってしまう。

 その前に伴侶をとエルフ達は必死に探した。



 それが行き過ぎて、クルビスに直接「伴侶は必要ない」と言わせてしまったのは反省する所だ。

 だが、それも杞憂に終わった。彼はちゃんと安らげる生涯の伴侶を得たのだ。



「まさか、ふたりがこんなに早くくっ付いちゃうとは思わなかったけどね~。」



「雨季の前に式を挙げると聞いた時は、いきなり挙式宣言をしたフィルド殿を思い出しましたぞ。」



「ルシェリード様も今すぐとおっしゃいましたな。」



「あの時のクルビス坊やの顔、ルシェリード様やフィルド殿にそっくりでしたの。きっと式の時も途中で帰りたくなるでしょうな。」



 式で着飾った伴侶を見て、そのまま巣に閉じこもろうとしたかつてのドラゴン達を思い出し、誰ともなく笑いだす。

 こんな日が来るなんて思ってもいなかった。だから生きることはやめられない。



『死んじまう気か?そりゃ、もったいない。もうちょっと生きて見ないか?面白いものが見れるぞ?何、私と一緒なら心配はいらない。私は運がいいからな。』



 奴隷市から助けられた時、オリの中で死のうとしていた自分たちにアタルはそう声をかけてきた。

 それから早2000年。日々面白いものに巡り合っている。



「あ。私の菓子っ。また勝手にっ。」



 そこに戻ってきたフェラリーデの悲鳴が響き渡る。

 それにすっとぼけた顔で出迎える。



「何のことじゃ?」



「これは長の土産じゃ。」



「美味しい菓子じゃぞ?お主も食べていかんか?」



「ほらほら~。ディー君も座って~。」



 白々しい誘いに顔を引きつらせつつも、目の前に差し出された菓子につられてフェラリーデが席に着く。

「次はこやつじゃな。」と思いながら、エルフの名物長老3人と長は一族の出世頭をからかい始めた。

Yu1さまからのリクエストでした。

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