表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
番外編 リクエスト話
304/360

異世界のお月見

今回も長めの2700字。

婚姻の式の後、秋のはじめの頃の話です。

「わあ。」



「綺麗だろう?」



 月は綺麗な緑がかった光に包まれ、月そのものが光ってるようにも見える。

 その光で、周囲は明かりがなくてもひとの顔がわかるくらいだ。



 今日は異世界のお月見の日。

 守備隊の屋上でふたりっきりだ。



 今日のお月見デートはクルビスさんからのお誘いだ。

 きっかけは、仕事が終わってクルビスさんと一緒に食事を取ってた時だった。



 ********************



「団子か…。そういえば、そろそろ月見の時期だな。たしか明後日だったか。」



 ふへ?月見?明後日!?

 月見って、あのお月見?



 クルビスさんの持ってる器には白くて丸いお団子が入っている。

 和食のデザートについてたやつだ。



 エルフのレシピで水あめを薄めたソースがかかっている。

 冷えてるので、甘いけれども食べやすい一品だ。



 え。じゃあ、これってお月見団子のイメージなの?

 元ネタはあー兄ちゃんとして、まさか異世界でお月見の習慣があるなんて。



「お月見の習慣があるんですね。」



「ああ。月を見ながら夜通し騒ぐから、警備が大変でな…。」



 あれ?思ってたのと違う。

 もっと、こう季節の移ろいを楽しむようなのを想像してたのに。



「騒ぐんですか?」



「ああ。元は秋の実りを感謝する行事だったらしい。だが、ドラゴンの新酒を開ける時期と重なっていたせいで、今じゃ雨季の前に仕込んだ酒のお披露目になってるんだ。」



 あ~。わかった。

 それでお月見と称した宴会になったんだ。



 ドラゴンとヘビの一族が酒好きなせいで、この街ではお祭りとなると飲み明かす習慣がある。

 きっと警備が大変だろうなあ。



「それは、大変ですね…。」



「ああ。確かに月の魔素も強くなるから、浮かれる気持ちもわかるんだがな。」



 月の魔素?

 また知らないことが出て来た。



 海や大地や空気にだって魔素は含まれてるっていうのは習ったけど、魔素が強くなったり弱くなったりするなんていうのは初耳だ。

 そのことをクルビスさんに尋ねると、そういう現象が起こるのはお月様だけなのだそうだ。



 お月様の輝きは日の光を反射しているからだけど、その反射の量が太陽との位置関係によって変わるからだそうだ。

 ちなみに、お月様の光が日の光の反射によるものだというのは、一般常識として浸透している。



 文章化したのはメルバさんだけど、そもそもドラゴンの一族が知っていたので、大きな混乱もなかったのだそうだ。

 占い師兼天文学者のジジさんがいるくらいだんもんね。



 ひとり納得してると、クルビスさんの説明にさらに驚かされる。



「だから年に一度、大気に月の魔素が多く含まれる日が「月見」の日なんだ。今年は雨季の後で助かったな。式の準備中にあったら大変だった。」



 ん?月見って秋じゃないの?

 聞いてみると「違う。」との答え。



「太陽の魔素の強さや位置関係で決まるんだ。だから、休眠期にあったり、雨季にあったりもする。今の次期はコンテストも終わって、気候も丁度いいから、余計に騒ぐだろうな。」



 ああ。成る程ねえ。

 それなら確かに、今回は騒ぐのにぴったりな時期にある。そりゃ、クルビスさんもため息つきたくなるよね。



 せっかくだから一緒に月を見たかったけど、これじゃあ見れないかなあ。

 旦那様は街を守る守備隊の隊長さんだもん。きっと一晩中お仕事だ。



「だが、その日は月がとても綺麗なんだ。月見の次の日は休みだろう?少し遅くまで起きていられそうなら、一緒に月を見ないか?」



 あれ?今共鳴してないよね?

 …うん。普通だ。じゃあ、これはクルビスさんからの純粋なお月見のお誘いだ。



「はいっ。起きて待ってます!」



 ふふ。デートも式の後の1回だけだし、夜にふたりで月を見るのもロマンチックだよね。

 ああ。楽しみ。



 ********************



 そんな風に決まったお月見デートだけど、お月見の月は想像以上に綺麗だった。

 日本で月見と言ったって、街の明かりが強いから星や月の明るさは中々わからなかった。



 ただ、丸い月を見ながらお団子を食べるのが楽しみだったくらいだ。

 でも、こっちの月見は違う。



 魔素のせいか、輝きが強くて目が離せない。綺麗…。

 私がぼうっと見入ってると、ぎゅっと抱きしめられる。



「クルビスさん?」



「あまり月ばかり見ないでくれ。…嫉妬で月を砕きたくなる。」



 ええっ。月もだめなんですか?

 雨季の蜜月の後からクルビスさんは私に関してかなり心が狭くなっているんだけど、まさか月にまで嫉妬するなんて。



 どうやら私が一定の時間誰かを見つめてるとダメらしく、最近は話の合間に視線を動かす癖がついた。

 これはドラゴンの習性で、本来トカゲの一族にはないものらしいんだけど、クルビスさんはかなり強く持っている。



 そのわけは、ルシェリードさんとフィルドさんという強い個体のドラゴンの血が2代に渡って入った影響で、ドラゴンに限りなく近いトカゲさんとして生まれてしまったからだそうだ。

 黒の単色なのもそのせいだろうと言われているけど、困ってしまうときもある。今がそうだ。



「だって綺麗じゃないですか。綺麗なものを私に見せてくれてありがとうございます。」



 背中に感じるクルビスさんにすりすりしつつ感謝を伝えると、腕の力が緩む。

 こうして伴侶が一番!っていうのを示し続けないと、嫉妬で辺りを壊して回るらしいので、最近は恥ずかしいセリフも照れずに言えるようになった。



 腕の力が緩んだところで、用意していたお団子の蜜がけが入った器から、スプーンで1粒救って口元に差し出す。

 ドラゴンの習性で伴侶に食べ物を与えるのは愛情の証らしく、これもふたりきりの時は積極的に行っている。



 目を細めて嬉しそうに食べるクルビスさんに何だか私も嬉しくなってニコニコとしていると、いつの間にか横抱きにされてスプーンを口元に差し出されている。

 いつもながらの早業だけど、ふたりきりの時なら私が恥ずかしがらないのを知ってるから、クルビスさんは上機嫌でよくやる。



「…ハルカ。」



 甘くささやくのもいつものことだ。

 腰が砕けそうになるので、部屋にいる時にして欲しいけど。



 そうやってお互いにお団子を食べさせ合ったり、しばらく月を眺めて異世界で初めてのお月見は終わった。

 その後、仕事に戻ったクルビスさんは朝まで上機嫌だったらしく、シードさんにお礼を言われて私が顔を真っ赤にして照れたりと、初めてのお月見は新婚らしい甘い思い出になった。

Yuinestさんからのリクエストでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=523034187&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ