デートー17
1600字程です。
正直、このふたりの喧嘩は気になっているから、このまま立ち去りづらいんだよね。
自分が同じような思いをしたことがあるっていうのもあるけど、一番は転移局の話だ。
この間の寒さでお年寄りの術士さんが辞めてしまったって言ってた。
その寒さって、私が来た日のことだよね?
私がトリップした影響で気温が低下してしまった日だ。
寒さの影響は大きくて、まだ入院してる子供たちもいる。
もちろん、私だって巻き込まれた方だし、自分のせいだなんて思ったりはしないけど、関わってるのは事実だ。
こうして、私が来たことでたくさんのひとの生活に影響が出てるのを目の当たりにすると、私に出来ることは何でもしたいって思う。
だから、もう少しこのふたりの話を聞きたい。
あの気温の低下が一般のひとにはどういう風に影響したのか知っておきたい。
「…いや、もう少し付き合おう。気になる話もあるしな。」
私の気持ちをくみ取ってくれたのか、単にお仕事だからかクルビスさんが留まることをビドーさんに伝える。
ビドーさんは「そうですか。」とあっさりと引き下がり、野次馬を散らして、喧嘩してたふたりをメロウさんのお店に連れて行った。
お店の前にテーブルが出され、さっきまで中で騒いでいたひと達は外に出ていた。
どうやら、話を聞くためにお店の中から追い出されたみたい。すみません。
外に出されたのに、皆さんは戻ってきた私たちに「お疲れ様です。」と笑いながら杯を掲げてくれる。
ついて来た喧嘩してたふたりには「ほどほどにしとけよ。」とか「またお前らか。」と呆れた感じで笑っていた。
どうやらこのふたりの言い合いは日常茶飯事みたい。
ふたりも会釈しながらついて来ていた。
「さあ、最初っから話しな。いったい何があって、今日ってえ大事な日に喧嘩なんかしたんだ?」
奥のテーブルにそれぞれ座って、ビドーさんが切り出す。
すっかり大人しくなったふたりは、ぽつりぽつりと喧嘩になった経緯を説明し出した。
内容は喧嘩で叫んでたことと一緒で、納期がぎりぎりになって注文が取り消しになるところだったというものだった。
ただ、その取引先の名前を聞いたときのビドーさんは怖かった。
「クルーガーの野郎。舐めた真似しやがる。おい、カバズ。あいつに言われたことなんて気にすんな。あいつはあちこちで難癖つけては商品を安く買い叩いてやがる最低野郎だ。…しばらくは静かにしてたんだがな。」
「クルーガーというと、東で問題を起こして逃げ出した男か?」
「へい。元は外から修行に来た技術者ですが、技術に敬意を払わねえろくでなしで。修行先をやめて商売を始めて、それが上手くいったまではいいんですが、そこから立場の弱いもんにぎりぎりの納期で注文して、ちょっとでも遅れたら買い叩くってことを始めやがって。」
ビドーさんから聞いた話は酷いもので、ルシェモモの街では納期までに仕上げるのは技術者の責任になるので、あくまで相手が納期を守らなかったという形をとって、ほとんど捨て値で買いたたくのだそうだ。
それに、大きな声では言えないけど、お金をこっそり貸し出したりしてるらしくて、その取り立てに店や家をうばわれたひともいるのだとか。
…やくざとか詐欺師のやり方だよね。これ。
こっちにもいたんだなあ。まあ、大きく組織化してるわけじゃないみたいだけど。
「目に余るようになったら、ヒョイと店をたたんで別の場所に移るんで手が出せねえんでさ。上手いこと管轄違いのとこに移りやがる。」
ため息と共に、ビドーさんが相手を捕まえられない理由を教えてくれる。
うわあ。もうそれ確信犯だよね。そんなのが北に移ってきたんだ。大変だあ。
「他にも被害がありそうだな。隊士たちに通達しておこう。…だが、転移局の話は早急に解決しないとな。つけこまれたのも、転移局の機能が落ちてるからだ。」
クルビスさんも顔をしかめている。
そういう犯罪まがいのことを繰り返させないためには、付け込まれるスキを無くさないといけない。
でも、現状で術士が足りてないってことは、すぐに補充がきかないってことで…。
カイザーさん、よくあの時私を勧誘しなかったなあ。きっと喉から手が出るほど転移陣を動かせる術士が欲しかったはずなのに。




