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素敵な花束で歓迎された後は、両手を花で一杯にして進んでいく。
クルビスさんに抱っこされてるから、両手から溢れそうでも平気だ。
「憶えてるか?森に行くとき通った場所だ。」
「はい。細い道をたくさん通ってここに出ましたよね?」
「そうだな。ハルカは目を回していた。。」
「迷路みたいでした。」
クルビスさんと一緒に街を歩いた時を思い出す。
迷路みたいな細い道を通ってこの道に出たんだよね。
近道したんだってわかったけど、右に曲がったり左に曲がったりで元来た道がわからなくなって、クルビスさんとはぐれたらどうしようって思ったのを憶えてる。
黒髪黒目を見せないためにフードを深くかぶってなきゃいけなかったから、周りをちゃんと見るのは難しかったし。
「あの時はこうやって歩くなんて思わなかったな。」
「ええ。迷子にならないようにってクルビスさんの後についていくばかりでした。」
ふたりの思い出に笑っていると、周りが静かなのに気づく。
あれ?何だか皆さんにこやかに頷いて手を振ってくれてる。
「いちゃつくのもいいけどな。周りに手ぐらい振ってやれよ?」
呆れた調子でシードさんに突っ込まれる。
…クルビスさんと思いでに浸ってたら、生温かく見守られちゃったみたい。恥ずかしい。
「花にうずめないで、顔を見せてやってくれ。ん?」
頭にチューはいりません。
うう。絶対変な顔になってるのに。
「フォッフォッフォッ。仲睦まじいことよ。」
ん?この特徴的な笑い声は…。
「ジジさんっ。」
道の左側にいたのは、以前、私に宣誓をさせてくれたドラゴンの一族の占い師さん、ジルベール・ジジさんだった。
いい香りが漂ってくるから、お茶を飲んでいるみたいだ。
この辺りは食堂みたいで、お店の周囲に簡易のテーブルとイスが並んでいて、皆座って飲んで食べて騒いでいる。
私たちが来ると手をふったり、杯を掲げたりしてくれていたけど、ジジさんが話始めると騒ぎが少し収まる。
「おめでとう。クルビス、ハルカ。」
「これはジジ様、ありがとうございます。」
「フォッフォッ。その抱え方、フィルドによう似ておる。」
ジジさんの感想に周囲がどっと笑う。
今日は良く言われるなあ。きっと後でも言われるんだろうなあ。
「今日はどこでも言われるなあ?クルビス。にしても、全っ然気づきませんでしたよ。ジジ様。」
シードさんも笑って、ジジさんに話しかける。
そういえば、ジジさんの魔素は大きいから、普通にしてたら相手が委縮する程だったはずなのにクルビスさんもシードさんも気づかなかった。
「子供らの相手をするのに、普段の魔素ではまずいからの。抑えてあるよ。」
子供たちの面倒とか見てるのかな?
花屋さんもしてるけど、いつもじゃないみたいだし。
「さあ、まだ回らないといけないだろう?お行き。皆、待ってる。…。」
え。『その目で街をしっかり見ておいで。』って言った?
周りには聞こえてないみたい。普段なら私にも聞こえなかっただろう。
今日1日で街の光景はたくさん見たのに。
それとも、ここから見えるのが大事ってことかな?
クルビスさんを見ると、軽く頷く。
そっか。じゃあ、きっと私が知ってた方がいいことなんだ。
「はい。では、失礼します。」
「ああ。今度は2つでおいで。」
ええ。また今度お茶しましょうね。




