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ドレスに突き刺さる視線を意識しながら笑顔で手を振って歩く。
装飾に関わるひとが多いからか、ドレスをもっと良く見ようと押し合いへし合いをしてるらしく、隊士さんの「押さないで!」の声が響きわたる。
「あれが白の…。」
「リリーの花だ。まだ瑞々しいなんて。」
「裾のひらめき、どうやって塗ってるのかしら。…靴にまで輝石が。」
「あれ、全部が白の輝石ですって?」
耳栓したままだから、ぼそぼそと言ってる声も良く聞こえる。
白の輝石に対する声が増えてきたと思ったら、スタグノ族の姿が混じり始めていた。
花や装飾品を扱う彼らにとって、海の輝石はよく扱うものの、白は知られていないらしい。
魚人との交渉ができるひとも限られているため、輝石のでき方など、そのものについて知ってるひとというのは少ないのだそうだ。
だからグレゴリーさんは白の輝石の素晴らしさにほれ込みながらも、自分の経営するお店にのみ白の輝石を卸していたのだと言っていた。
私が身につけているのはその中でも最高級品で、長い間しまいこまれていたものだ。
たまたまグレゴリーさんが持ってきてくれなかったら、違うものを身につけていただろう。
グレゴリーさんは素晴らしい一品というのは持ち主を呼ぶのだと言っていた。
こんなすごいものに呼ばれるなんて信じられないけど、マーメイドドレスにはぴったりだった。
だから、きっと「白」を見せるために私の所に来たんだと勝手に思っている。
「おめでとうございまする!」
「なんとめでたやっ。」
「今日は良き日じゃ!」
この時代がかった言葉使いは…。
やっぱり。青の一族の方々だ。
お顔のシワがあるから、皆さん年配の方だな。
笑顔で「ありがとうございます。」と返したけど、ちょっとこけそうになった。
ここだけ空気が違うよねえ。
皆さん、座って寛いでたみたいなのに、一斉に立ち上がって杯を掲げてくれるし。
気楽に祝って頂いて結構なんだけど。
まあ「おなーりー」で出迎えてくれる一族だし。礼儀にはうるさいのかも。
皆さんの隙間から見える料理は彩り艶やかなものばかり。
ルドさんが言ってた、青の一族の祝い料理「花づくし」だった。
青の一族の長のお宅にお邪魔した時、出てくるかもしれないって聞かされてたんだよね。
結局、食事はお断りして逃げ帰ってきたけど。
どんな味なんだろう。
形式を大事にする一族みたいだから、見た目重視で味はあんまりだったりして。
今度キィさんに聞いてみようか。
あ。お酒の中にも花が浮いてる。徹底してるなあ。




