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そのまま奥に向かうと、今度は大きな布が見えてくる。
あれは大きな文字?絵?丸と曲線で構成されている。
2階建ての屋根から下げられている。
それもあちこちに。
「あれは…。」
「刺繍、いや、織物だな。」
「ククカ織りに、向こうにはジャグ織りもありますね。」
クルビスさんもアニスさんも興味深そうに見ている。
ということは、あの大きなタペストリーは知らなかったってこと?
「おめでとうございます!」
「おふたりに祝福を!」
「祝いの模様を図案化したんです!それぞれの工房でアイデアを練って!」
周りにいたひと達がみんな立ち上がって杯を掲げて祝ってくれる。
今日のために織ってくれたの?わあ。嬉しい。
「今日のためにこれを用意してくださったのですか?」
「そりゃそうですよっ。ここでやらないでどうします!言ったでしょう?ここは街一番の織物地区なんですよ。」
クルビスさんの質問に胸を張って答えてくれたのは、黄色い体色に赤い斑点模様のヘビの一族のおじさんだった。
あのひと、ヘビの一族のお祝いで見たことある。
私がサリエさんと話してる間にクルビスさんと話してたひとだ。
この辺にお住まいだったんだな。
おじさんの手に持ってるジョッキは他のひとより一回りは大きい。
さすがヘビの一族。
西に工房を構えず、北で織物をやってらっしゃるみたい。
周りに「親方、その辺で。」って言われてたから、工房の親方さんみたいだ。
「やれ、めでたい!はははっ。」
豪快に笑ってジョッキを傾ける親方さん。
周りも笑顔で手を振ったり「おめでとう!」と声をかけたりしてくれる。
西地区の雰囲気に近い感じだ。
ヘビの一族が多いからかな?
「「ありがとうございます。」」
お礼を言って、先へ進む。
私たちのために忙しい中特別に織物を作ってくれたなんて、何て嬉しいサプライズ。
幸せだなあ。
どの織物も色とりどりで、とても綺麗だ。
丸に流線型の模様が基本みたいで、それに鳥が羽ばたく図案や花が舞い散る図案が追加されている。
そのうち、途中から糸が盛り上がって立体的に見える織物が混ざってくる。
図案もトカゲと女の子が踊ってるものやトカゲさんが女の子を抱っこしてる図案に変わってきてる。
並んでるタペストリーの雰囲気が変わった。
さっきクルビスさんとアニスさんが織物の名前を幾つかつぶやいてたから、織りが違うんだろう。
これも手間がかかりそうだなあ。
手作業のはずだし。
織り機はあるだろうけど、日本みたいな完全な機械生産じゃないはずだ。
本当に技術の街だなあ。
作ったひとの心意気が伝わってくる。




