49
だとすると、あの子があんな風になったのって…。ん?
何だか怯えたような魔素が。左前の道の奥の方からだ。
「クルビスさん。抱っこして下さい。」
「さみしくなったか。」
ちがいますよ。
都合のいい解釈しない。
「ちょっと気になる魔素が…。」
「ん?…見る必要はないぞ?」
「お願いです。ルシン君、ちょっと裾放してもらっていい?」
クルビスさんはちょっと渋っていたけど、ルシン君が裾を放すと片腕抱きの抱っこをしてくれた。
これで視界が高くなって良く見える。
「きゃあ。素敵。」
「睦まじいことよ。」
周りは歓声を上げるけど、奥にいる女の子は顔を伏せたままだ。
横にいる深緑の体色の子が気に書けている様子が見えた。
黒っぽいグレーに黒いラインの入った体色。
知らない子だ。
でも、この感じは、後悔?悩み?
あまり良くない魔素だ。
「あの子だよ。奥にいるだろう?」
「え。あの子って、あ。」
クルビスさんの耳打ちに驚いてもう一度見る。
もう横まで来てたけど、他のひとは顔を上げて笑顔で手を振ってくれるのに、彼女だけ下を向いたままだった。
クルビスさんが意味深にいうあの子って、あのイグアナの一族のお嬢さんだ。
ああいう色だったんだ。黒く塗りたくってないから誰かわからなかった。
顔を上げてくれないかな。
もう怒ってないんだけど。
「…とうございます。」
よく聞こえなかったけど、おめでとうございますって言ったんだよね?
うん。今度は優しい魔素だ。きっとそうだろう。
「ありがとう!」
お礼を言って手を振ると、彼女は胸に手をあてて深々と礼をした。
何だか頭を下げられてばかりだなあ。そんなつもりはないんだけど。
「素晴らしい魔素だ!」
「なんとめでたい!」
奥にいるイグアナのお嬢さんに言ったつもりのお礼に、手前にいるイグアナの一族が反応する。
皆、きらきらした目で私とクルビスさんを見ている。
お披露目の時も思ったけど、この一族も黒が好きだなあ。
イグアナの一族のひと達は、デザイン化された幾何学模様の服を着ている。
模様の色は黒い線で描くと決められているけど、それ以外は自由。
これがイグアナの一族の正装だ。
たしか黒い線を身体に持った長がシーリード族への参加を決めて、とても賢かったその長にならって黒いラインの入った衣装を大事な儀式の時に着るようになったんだっけ。
付け焼刃で習った知識を頭に思い浮かべる。
シーリード族の中での地位もあるけど、きっとその長様のことがあって黒に傾倒するようになったんだろう。
そして、それがイシュリナさんやクルビスさんの事でよりひどくなったのかもしれない。
「この子に祝福を下さいまし!」
「あ、うちの子にも!」
興奮したイグアナの一族や他の一族の親たちがわれ先にと子供たちを前に押し出す。
子供たちはきょとんとしている。
え。祝福って。
どうしよ。クルビスさん。
「幸せになるよう祈れば祝福になるよ。共鳴すればそれが周りに広がるから、一度で済むだろう。」
共鳴ってそういう使い方も出来るんだ。
というか、いつの間に共鳴切ってたんだろう。
クルビスさんって魔素の扱いが自由自在だよね。羨ましい。
あ、魔素が膨らんできた。今回はちゃんとわかる。
「どうか、あなた達が幸せになりますように。」
願いを込めて子供たちを見つめる。
にこりと微笑めば、子供たちも笑い返してくれる。
うん。子供は笑顔が一番。
この子達だけでなく、街のひと達にも良いことがありますように。
「まあ…。」
「なんて大きな魔素。」
「あったかいねー。」
「うん。ぽかぽかー。」
魔素が伝わったのか、周りのひと達や子供たちが驚いたような笑顔になる。
私とクルビスさんの魔素って影響あるんだなあ。
でも、これくらいでいい気分になってもらえるなら嬉しいことだ。
もっと魔素を扱えるように訓練がんばろう。




