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「今のトカゲの家長は甘い物に目が無い。だから、家長の伴侶さまはスイーツの研究に余念がない。これとレシピを持って行けば、それは喜ばれるだろう。」
「そうなんですかっ。是非、そうしますっ。ありがとうっ。ルドさん。」
私の疑問が顔に出てらしく、ルドさんが丁寧に理由を説明してくれた。
そっかあ。トカゲの長さまって甘いもの好きなのかあ。奥さまも研究熱心なら、このゼリー葛餅は目を引くだろう。
いい手土産に出来そうだ。ちょっと不安が減ったかな。
気に入ってもらえるといいんだけど。
「大丈夫だ。家長の伴侶さまはゼリーが好物だからな。きっと気に入る。」
「そうなんですか。…ルドさん詳しいですね?」
ありがたい情報だけど、何でそこまで知ってるんだろう?気になるなあ。
でも、ルドさんは私の疑問に「有名だからな。」と苦笑して、後は葛餅のお皿を持たせてクルビスさんのもとに行くようにと勧めるだけだった。
むう。「有名だから」かあ。納得のいく理由な気もするんだけど、何だか誤魔化された感がヒシヒシとするなあ。気になる。
クルビスさんに聞いてみようかな。次期トカゲの一族の長…家長っていうんだっけ、になるクルビスさんなら知ってるよね?
「それじゃあ。行ってきます。」
「ああ。クルビスに夕飯くらいは下で食えと言っといてくれ。」
「はい。言っておきます。」
そういや、クルビスさんは最近忙しいからって自分の執務室でご飯食べてるんだよね。
私と一緒にご飯食べたのなんか、婚約してからこないだエルフの里に行った時までなかった。
ネロの誘拐騒ぎがあったせいで、帰ってきたらまた同じように忙しくなって、執務室に籠りっぱなしの生活に戻っている。
今日は夕飯一緒に食べようかな。もちろん下で。
今は守備隊の中なら自由に移動できるので、最近は1階の食堂でアニスさんと食事をとっている。
クルビスさんと婚約して式も挙げる以上、いつまでも引きこもってはいられないからだ。
婚約が決まった時点で、私の表向きの素性は北の守備隊の隊士さんたちにはお知らせしてある。
異世界初日の時点で私の髪を見ている隊士さんが結構いたので、驚かれることは無かった。
それどころかすでに私のことは知れ渡っていて、いつクルビスさんが落とすか賭けていたらしい。
婚約のきっかけになった私の魔素の暴発も、賭けの終了時点の証拠としてとてもわかり易い目印だったと笑って迎えてもらえた。とても豪快なひと達だ。
食事のたびに皆さん気さくに声をかけてくれるので、知り合いも結構増えた。
クルビスさんの事情は皆知っていて、私のこともとても好意的に見てもらえている。
ちなみに、私の魔素の暴発で倒れた隊士さんなんかは、「情けないっ。鍛錬が足りんっ。」と自主練の量を増やしては医務局に担ぎこまれ、病室を抜け出してはフェラリーデさんに笑顔でベッドに投げ飛ばされていた。
守備隊って脳筋なの?と思ったが、何故かその瞬間フェラリーデさんと目があったので、慌てて頭から打ち消したのは忘れられない。
そうですよね~。フェラリーデさんやクルビスさんが脳筋なわけないですもんね~。と視線をそらした私はチキンな子です。
まあ、何はともあれ、クルビスさんが心配なのはたしかだし夕飯をお誘いしてみよう。
たまには二人で食事くらい良いよね?




