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似姿は数が売れてるらしく、チラホラと店の前に売り場が設けられていた。
買ってくれたひとも売ってるひとも笑顔で手を振ってくれてるから、悪い気はしない。
…そのうち、サインでもって話になりそうだ。
何て書けばいいんだろう。私の場合、エルフ文字かな?
「ハルカ、あの先でまた曲がって戻ることになっている。ゴムをたどっていけば噴水に戻れるようになってるはずだ。」
クルビスさんが仲良しアピールの耳打ちついでに、この後のルートを教えてくれる。
何せ急な式だったから、大まかにしか教わってない。クルビスさんは知ってるみたいだけど。
ん?でも、あれがゴム?
異世界2日目で私が気絶したやつ?
異世界のゴムは花の蜜を固めたもので、透明でつるつるしている。
髪ゴムが欲しくて、フェラリーデさんに話したらあったんだよね。
でも、異世界のゴムって魔素を通した分だけ伸びるって性質があって、無防備に触った私は魔素を大量に注ぎ込んで倒れてしまった。
あれ以来、不用意に周りの物に触らないようにしてる。
「あの、ゴムをあんな風につかんで大丈夫でしょうか?」
「ん?ああ。魔素を流さなければ大丈夫だ。今のハルカなら倒れないよ。」
そういえば、掴んだだけで魔素を流し込むのは子供だけだって後で言われたっけ。
魔素の訓練を受け始めて、人並みには何とか抑えられるようになったし、今なら大丈夫かも。
ホッとしてると、私の考えを読んだクルビスさんがくすりと笑う。
むむ。思い出して笑ってますね?もう。忘れて下さいよ。
「ふ。悪い。あの時のハルカも可愛かったなと思って。」
ぐ。…甘くささやかなくていいです。
笑顔で手を振らないといけないのに、立てるようになったら歩かなきゃいけないのに、ますます腰が抜けちゃったじゃないですかっ。
「ハルカが可愛いのが悪い。」
しれっとした顔で何言ってんのこのひと。
もうもう、恥ずかしいことばっかり言ってっ。
「ほら、手を振らなくていいのか?」
誰のせいだとっっ。
…ふう。もう、その手には乗らないんだから。
私の反応を面白がってたって、反応してあげません。
祝ってくれるひと達に手を振ってありがとうって言わなきゃいけないんだから。
お好きなようにって?
ええ。好きにします。
あれ?周りの視線がなんだか…妙に生温かいような。
あれ?今共鳴してる?何で?
「ああ。この先が噴水だ。」
ちょっと。クルビスさんっ。
今のやり取りダダ漏れじゃないですかっ。
「いいだろ?今日は見せつける日なんだから。」
よくないっ。
共鳴の時は私に言うか魔素でわかりやすくって…ちょっと、目を逸らさない。
「そう言うな。俺は見せつけたい。」
そう言って、またささやくように甘い言葉を言うクルビスさん。
何だろう。今日はずっとこんなこと言ってるなあ。
怒りを通り越して、呆れてしまう。
そんなに我慢させてたかなあ。
「婚約中は我慢してたからな。」
「不用意に触れない、でしたっけ?」
そういえば、そんなこと言ってたっけ。
魔素に慣らすとか言って、さんざん触ってたくせに。
あ。共鳴切った。
もう。勝手なんだから。




