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36

 残った赤いケーキの切り身のようなものは、さつま揚げのような甘い味のかまぼこだった。

 揚げてるわけじゃなく、こちらは焼いて火を通しているようだ。



「かまぼこ…。」



「ミランは苦手か?」



「いえ、故郷にも似た感じの料理があったので、驚いて。」



 私が答えると周りで驚いたような反応が返ってくる。

 え。何かまずいこと言った?



「へえ、海が近いんっすね。」



 あ。そっか。

 ここにはベルさんにバウルさんがいたんだった。



 ふたりとも私が異世界から来たこと知らないもんね。

 北の辺境出身ってことくらいしか聞いてないだろう。



「ええ。だから、魚を使ったメニューが多いんです。」



 ふたりともそれで納得したのか、頷いて次のメニューに手を付けている。

 あまり故郷の話は言い過ぎないようにしよう。ボロが出たら困るし。



「そういえば、ハルカは魚が好きだな。」



 クルビスさんが私を見ながら言う。

 お肉も食べるんだけど、こっちに来てからは確かにあまり食べてない。



 暑いんだよねえ。

 日本で猛暑と言われる気温がほぼ毎日だから、胃がすぐにバテる。



 あっさりした味付けのメニューも多いけど、やっぱりお肉は重たい。

 だから、自然と煮魚とか汁物の料理を選んじゃうんだよね。



「そうですね。お肉よりはお魚ですね。」



「そうか。じゃあ、これはどうだ?」



 そう言ってクルビスさんが取り分けてくれたのは、小さいお魚を薄い緑の衣で揚げものだ。

 食べてみると、カレー味の天ぷらだった。



「美味しい。カリーの香りがします。」



「青の一族のメニューっす。こっちのもそうっすよ。」



 食べやすくてあっという間に天ぷらを食べると、ベルさんが別のメニューを勧めてくれる。

 こっちは薄い緑の粉がまぶしてある真っ赤な野菜だった。



 色はどぎついけど、カレーの香りに引かれて口にする。

 あ、ジャガイモだ。カレー粉まぶしたフライドポテト。



 ジャガイモはひと口大に櫛形に切ってあって、外はサクサク中はほっこりしていた。

 これも美味しい。青の一族ってカレー粉好きなんだなあ。



 そんな感想をいだきつつ、私がにこにこと平らげていると、ドアがノックされる。



「これはルドですね。今行きますっ。少し待ってくださいっ。」



 フェラリーデさんが部屋の外へ行くと、一緒に水色のトカゲの男性を伴って帰ってきた。

 北の守備隊の料理長ルドさんだ。



 彼もこのお祭りで戦利品がいろいろあるらしい。

 山盛りとまではいかないけど、かなりの量を持っていた。



「ここにいると聞いてな。俺の分はあるか?」



「料理長のは避けてあるっす。」



「料理長は菓子の店を回られたんですよね。」



 お菓子。

 わあ。食べてみたい。



 顔に出てたのか、ルドさんは私を見てちょっと笑って手の中の荷物を広げてくれた。

 どれもカラフルで綺麗だ。果物やお菓子はどぎつい色ってわけじゃないんだよね。



 お祭りならではのメニューだからか、いろんな果物を一口大に切って蜜をかけたものや、カステラみたいな生地を揚げて砂糖をまぶしたものなど、一口で食べやすいものが多かった。



 果物を使ったメニューが多かったかな。

 さすが南国。



 それにしても、ひと口ずつとはいえ山盛りのメニューを一通り食べると、さすがにお腹一杯になる。

 目の前にあるものを一通りいただくと私とアニスさんはそうそうに離脱したけど、男性陣は山のような食事を平らげていった。



 それでも、ヘビの一族のシードさんやベルさんは足りないんじゃないかと思ったけど、シードさんは軽めでちょうどいいとか恐ろしいこと言っていたし、ベルさんを含む調理部隊の面々は、この後味を再現したものを作ってそれをさらに食べるらしく、足りない様子はなかった。



「さて、もう少ししたら5刻です。その頃には出ましょう。」



 食後のお茶で一息ついていると、フェラリーデさんが提案する。

 もう5時になるんだ。早いなあ。



 日が暮れるのが今の時期だと8時くらいだから、まだ余裕はある。

 北を回りきって、守備隊に戻ったらゴールだ。



 お腹も程よく一杯になったし、最後頑張ってあるくぞ!

 あ。クルビスさんに歩かせてってお願いしとこう。



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